目指すは、香りのウォークマン?――男性も使える小型アロマ「AROMASTIC」に開発者が込めた“ソニーの系譜”(1/2 ページ)
「ウォークマン」が音楽を携帯する文化を生んだように、数種類の香りを持ち運べて好きな時に楽しめる――そんなスティック型のアロマディフューザー「AROMASTIC」をソニーが開発している。同社の新規事業創出プログラムの一環で、クラウドファンディングサイト「First Flight」で一般消費者のニーズを探りながら支援を募る。開発メンバーの角田夕香里さんは「アロマというと女性向けのイメージが強いが、男性のユーザーも多い」と話す。
専用のカートリッジを先端に格納し、スティックを回転させて香りを選ぶ。本体側面のボタンを押すと、先端から香りが空気の流れに乗って拡散し、ボタンを離すと瞬時に香りが消える仕組みだ。匂いが周囲に広がる心配もなく、電車内やオフィスなど時間・場所に関係なく使える。直径は約25ミリ、長さは約85ミリ、重さは約40グラム。
ラベンダーやローズの穏やかな「Night Time」、ローズマリーやクローブのスパイシーなシトラス系「Focus」、パインやクローブの大地の香りを楽しめる「Vitality」といった5種類を用意する。支援は8980円(税込)からで、募集期間は1月20日まで。
ソニーを受け継ぐ新製品に挑戦したい――入社から7年越しの思い
開発メンバーの藤田修二さん、角田夕香里さん、寒川恒俊さんは2009年入社の同期で、ソニーの基礎的研究開発を担う先端マテリアル研究所(神奈川県厚木市)の出身だ。藤田さんは入社当時から「ソニーのアイデンティティーはエンタテインメントの分野」と考え、新製品開発の機会を狙っていたという。「ソニーは(ウォークマンやBRAVIAなど)視覚や聴覚でヒットを生んできた。そうしたワクワク感を、今度は“嗅覚”でチャレンジしたいと、周囲の刺激を受けながら心に決めた」(藤田さん)。
本業の研究の合間を縫い、同部署の寒川さんと手弁当で取り組みをスタート。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)と組み合わせ、海の映像を見せながら、磯の香りをかがせる――といったような仮想現実(VR)の体験を出発点に開発を密かに続けた。「唐突に研究所長を呼び出して、説明もせずHMDを被せてコンセプトを体験してもらう、といった無茶なこともした」(藤田さん)。しかし2012年に藤田さんは社内留学で米国に、寒川さんは他部門に異動となり、プロジェクトは中断してしまう。
一方、ソニーの社内では新規事業創出プログラム(Seed Acceleration Program、SAP)が始動。新規事業のアイデアを持つ社員がオーディションに応募し、合格すると専任で商品化に挑戦できる――という取り組みが始まっていた。藤田さんは「(事業部所属ではない自分でも最終製品を提案する可能性が開かれたと)機会をうかがっていた」と当時の心境を語る。
米国から帰国した藤田さんは、同じ部署となった角田さんと企画書を作成。「未来過ぎない」「映像との組み合わせは止め、香りだけで成り立つコンテンツに重点を絞る」などとコンセプトを改め、別部署だった寒川さんの技術協力もあって、オーディションを突破した。
同社のエンジニアは、ソフトウェアや電気系が多数だが、メンバーの3人はいずれも化学分野を専攻。光や音などの「物理シグナル」と違い、香りは「化学シグナル」と言って、分子の作用に起因するため、アロマオイルの取り扱いや香りの分散などの研究には適任だった。藤田さんは「本格的に研究を始めて、アロマの展示会や嗅覚関連の学会を巡ったり、先行する研究論文や特許、商品を調べたりしたが、『この業界はまだまだ革新できる』と感じた」という。
香り成分を保持するカートリッジの内部パーツには、マイクロ流路技術を応用し、独自の微細構造をプロジェクトチームで開発。マイクロ流路とは直径が数十~数百μメートルの液体用の通路で、血液検査用の医療機器に使われるほか、同社では光ディスクで培った微細加工技術を応用している。藤田さんは留学先の研究室の教授がマイクロ流路の専門家だったこともあり、アロマへの転用を思い付いた。ソニー独自の3Dプリンティング技術「1次元規制液面光造形法」を活用して、カートリッジの内部構造を造形し、極少量のアロマオイルを別々に詰め込むことに成功した。
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