立ちどまるよふりむくよ
DTMの夜明けを告げた「ミュージくん」とPC-9801がいたあの頃(2/2 ページ)
そしてMT-32は残った
そんなPC-9801(きゅーはち、キュッパチという人もいた)の時代だったが、音楽、グラフィックスなどクリエイティブな人たちはMacintoshへの移行を徐々に果たしていく。「Macが使える」というのは、転職・就職のときのセールスポイントとなったのだ。ぼく自身もMacintosh Plusを買って使えるということで、ソフトバンクに入って現在に至るわけだ。使い始めた理由が、ミュージくんのデータがPC-9801じゃいっぱいいっぱいでMacじゃないと続きができないから、であったとしても。
MT-32にはまだ魅力があった。マルチティンバー。いまでこそ、1つの音源で複数の音色を同時に出せるというのは常識だが、当時は非常に珍しかった。そうでなければ、ピアノ音源、ベース音源、ドラム音源、シンセサイザー音源、オルガン音源、ギター音源など、使用する音色毎に音源モジュールを購入しなければならない。第3回で紹介したAMDEK CMU-800はマルチティンバーの走りとはいっても、非常にシンプルなピアノと、ベース、ドラムと、矩形波だけのメロディーで、リアルなバンドの音を出すことは難しかった。
しかも、MT-32の音は、当時ローランドがブイブイ言わせていた最新デジタルシンセサイザーD-50の直系であった。D-50はLA(Linear Arithmetec)という方式で、PCMのようなリアルな音を出せた。PCMの素片をアタック部分に使い、それ以外は従来のアナログ方式のシンセサイザーのような仕組みを組み合わせるという、FM音源と比べると音作りがやりやすいということが売りだった。
ローランド創業者の梯郁太郎氏の伝記では、FM音源の生みの親であるスタンフォード大学のジョン・チャウニング博士を訪れたが、その半年前にはヤマハとの契約が決まっており落胆した話が書かれている。1983年のDX7からD-50登場までの4年間は営業の士気低下が感じられたほどだという。
田中雄二氏の名著「電子音楽イン・ジャパン」では、ローランドの製品開発に関わっていたゴダイゴのミッキー吉野氏が「アタック+芯+影」という要素での音作りを提案していたことがLA音源に結びついたと指摘している。
MT-32という名前は、マルチ・ティンバー、複数の音色が最大32同時発音できる、という意味でもあった。LA音源ではパーシャルという単位の音の素片を組み合わせるもので、複数のパーシャルを使う場合には同時発音数が32より少なくなってしまう。それでも、自由にパートを組み合わせることが可能なので、金欠の宅録派には当時最高の音源だったのだ。
ローランドでは、MT-32の取扱説明書をPDFでダウンロードできるようにしているのがすばらしい(ちなみにMC-4もある)。
このMT-32で長々作っていた曲が、カセットテープに残っていた。データではなく、ミックスダウンしたもので、ミュージくんのデータそのものではない。MIDIデータでエクスポートしてMacのPerformerに引き継ぎ、なんとか完成させたものだ。
ボーカル入りのその曲をインストのままで公開するのもちょっと気が引けるので、2016年の自分の歌声を追加して公開してみた。
カセットテープの音がよれよれでノイジー、ギターの音がしょぼい、ボーカルが声ひっくり返ってるじゃないか、そして初期の通信カラオケみたいな「テラMIDI」と言われるかもしれないけど、実際にこのMT-32のマルチティンバーがGM、GS、XG音源につながっていったわけでして……。
ともあれ、1988年からの仕掛品をようやく完成させたので、ぼくも安心して天国への階段を登れそう。
君たちが望めば戦争は終わる
と、ここで終わりにするはずだったが、こんな映像を自分のホームムービーから見つけてしまった。1988年の我が家を映したものだ。
ミュージくんの画面が映っているんだけど、この部分だけ無音になっていて、何をやってたんだかわからなかったものだ。音声だけをエクスポートし、Audacityで正規化してさらにノイズ除去を行うと、ミュージくんを使ったことを忘れていた楽曲が流れた。
ジョン・レノンの「Happy Christmas (War Is Over)」を、ミュージくんに入力し、再生していたのだ。
妻がホイップをひねってクリスマスケーキをつくり、ぼくが髪にクリームがついているのを指摘したりというのも、28年ぶりに知ることができた。
妻との想い出が1分39秒だけ増えた。これもDTMのおかげだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
立ちどまるよふりむくよ
過去を振り返りまくる連載。音楽、映像、コンピュータ、テクノロジーをタイムトラベルしながら新たな発見をしていく。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「命の砂時計」連呼のGMO会見──熊谷代表の発言にXではツッコミ続出
-
2
GMO熊谷代表、涙の謝罪会見でも“熊谷節”さく裂──「31年間、もうけるという言葉は使ったことがない」
-
3
GMO熊谷代表、会見で改めて謝罪 SNS投稿巡り「配慮が欠けていた」
-
4
ロゴ画像用の公開領域に顧客ファイルも保存 GMO系シングルサインオン、4.5万人分漏えい
-
5
アットコスメ、会員約300万人分の情報漏えい 不正アクセスで
-
6
日本郵政「ゆうID」不正ログイン、他社で流出したパスワード使うリスト攻撃か……2段階認証必須に
-
7
ニコニコレンタカー、免許証画像の事前登録を廃止 保存済み画像も全削除 サイバー攻撃の増加受け
-
8
総務省、GMO攻撃者サイトの「ブロッキング」を通信各社に要請 報道
-
9
「楽天銀行から数百万が勝手に移動」「残高が0に」……楽天証券のシステム不具合、連休中に発生
-
10
渦中のGMO記者会見、責任の所在はどこに? 熊谷代表が語った“グループ内の力関係”
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR