坂村健氏に聞くIoTの過去・現在・未来
「IoTの父」が考える「最大の課題」とは?(1/2 ページ)
「IoT」(Internet of Things)の基本的なコンセプトを30年以上前に公開していたのが、東洋大学INIAD情報連携学部学部長の坂村健氏。最初はHFDS(超機能分散システム)、次に「どこでもコンピュータ」、「ユビキタスコンピューティング」、そして現在の「IoT」と呼び方は変わっても、コンピュータが組み込まれたモノが通信によってつながるオープンな社会を目指すというところは共通している。その実現のために坂村氏が提唱したのがTRON(トロン)プロジェクトだ。
IoTを語る上で欠かせない組み込みOS「TRON」。1984年から開始した歴史あるTRONプロジェクトのリーダーである坂村健氏は、TRONを通してIoTが歩む道を見守り続ける第一人者でもある。本稿では、そんな坂村氏が考えるIoTのこれまでの歴史と、今後の課題について聞いた。
半導体の進歩により生まれた「モノの制御」という役割
IoTにおいてTRONがどのように活用されているのかについて前稿で述べたが、そもそも組み込みOSには「モノの制御」と「情報処理」という2つの役割がある。
「『モノの制御』という考え方が生まれたのは、半導体による進歩によるものが大きいです。1940年代から1950年代にかけては、モノのなかに入るようなサイズの制御装置がありませんでした。かろうじて線をつないで外からコントロールすることはできましたが、いまのようにカメラのなかに入れるということは不可能だったのです」(坂村氏)
1台で1つの部屋を占有する巨大なメインフレームコンピュータを中心とした時代が1960年代まで続いていたが、1970年代に入ると半導体技術が進化し、マイクロプロセッサが誕生する。ミニコンピュータ、ワークステーション、パーソナルコンピュータといった安価で高性能なコンピュータが、プロセッサの小型化をきっかけに登場した。その結果、小型デバイス(モノ)のなかにコンピュータが組み込めるようになり、制御が可能になる。
「あらゆるものがネットにつながるという概念は、1980年代からありました。しかし、実際にそれができるようになったのはあくまでも最近です。かつて『ユビキタスコンピューティング』などいろんな名前で呼ばれていたものが、『IoT』という言葉に集約され始めたというのが正しいでしょう。“インターネットでモノをつなぐ”のではなく、“インターネットのようにつなぎたい”、そんな世界を作れるようになってきたからこそ、IoTという言葉を多くの人が使うようになったのです」(坂村氏)
1980年代にIoTという言葉はまだ存在しない。その概念を提唱したのは坂村氏だ。TRONプロジェクトにおいて坂村氏は、日常生活のあらゆる部分にまでマイコンが入り込み、何らかの形で人間と関わりを持つようになると予想し、それらのコンピュータを連携するシステム「超機能分散システム」(Highly Functionally Distributed System=HFDS)を思い描いてきた。まさに現代のIoTの考え方に合致するものだ。
HFDSはその後、「どこでもコンピュータ」、「ユビキタスコンピューティング」、「IoT」と呼び方が変わってきた。HFDS、どこでもコンピュータは坂村氏が提唱した言葉。コンピュータが環境に溶けんだ状況を示すユビキタスコンピューティングという言葉はもともとXerox PARCの研究者が発表したものだが、坂村氏も積極的に支援し、2000年代にはこの言葉が一般的となった。
IoTという言葉自体は「流通するモノにとってはRFIDタグがインターネットのようなもの」という意味合いだったのが、今ではHFDS、ユビキタスと同じような意味を持つに至っている。言葉が変わっても、意味するところは共通している。1980年代末にスタートしたTRON電脳住宅が、今ではIoTスマートホームの先鞭と評価されているように。
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