Coinhive裁判、弁護側がIT業界から意見書募集 Web上の声をくみあげ、最高裁に提出
Coinhive事件の東京高裁による有罪判決を受け、弁護人の平野敬弁護士が2月18日、日本ハッカー協会を通じて意見書の募集を始めた。Coinhiveが「不正指令電磁的記録」(ウイルス)に当たるという高裁判決に対し、平野弁護士はソフトウェアの開発などで萎縮を招くと指摘。IT業界で働く人たちから意見を募る。集めた意見書は、上告趣意書と合わせて最高裁に提出する予定。
意見書募集の目的は「業界内の声を直接届けること」(平野弁護士)。同氏は「高裁判決に示された規範が先例となってしまうとどのような不利益が生じるか、不正指令電磁的記録があいまいに解釈適用されていくことがどれほどソフトウェアの開発を萎縮させるか、現場や経営の立場から、実情をもとにご意見をお寄せいただければと思っています」としている。
意見書は、個人・法人、国籍や年齢を問わず受け付ける。内容は経歴、仕事や役割、Coinhive事件から受ける影響、不正指令電磁的記録保管罪(刑法168条)や高裁判決に関する意見など。締め切りは4月1日午前0時まで。
逆転有罪の背景
Coinhive事件は、仮想通貨マイニングツール「Coinhive」を閲覧者に無断で自身のWebサイトに設置したとして、デザイナーの男性が不正指令電磁的記録保管罪に問われた事件。一審は無罪判決だったが、控訴審では一転して有罪判決となった。
刑法上、不正指令電磁的記録は「(PCの持ち主の)意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」と定められている。裁判では(1)Coinhiveがサイト閲覧者の意図に反してプログラムが実行されたかを問う「反意図性」、(2)Coinhiveのプログラムによる指令が不正に当たるかの「不正性」──が争点になった。
東京高裁は、Coinhiveはサイトの閲覧に必要のないプログラムと指摘。「閲覧者にマイニングによってCPUの機能が提供されていることを知る機会やマイニングの実行を拒絶する機会も保証されていない」とし、反意図性を認めた。
地裁が認定しなかった不正性についても、Coinhiveと同様のプログラムに対する賛否があったことや、当局の注意喚起がなかったことは「不正性の判断には関連性がない」と判断し、不正性があると認めた。こうした根拠を基に、高裁はCoinhiveが不正指令電磁的記録に当たると判断。有罪判決を言い渡した。
高裁判決には「多数の問題点が含まれている」
高裁判決の理由付けに対し、平野弁護士は「多数の問題点が含まれている」と指摘。詳しくは内容を精査して主張するとしているが、例えば「Webサイトに設置するJavaScriptが、サイト閲覧に必要なプログラムでなければ、反意図性が肯定されてしまう」「コンピュータの破壊や情報流出を行うものではなく、リソース消費がどれだけわずかであったとしても、不正性が否定されない」という点を問題視している。
平野弁護士は、この理論を当てはめれば、GoogleAnalyticsのような解析ツールやターゲティング広告も不正指令電磁的記録に当たると判断でき、Webサイトのオーナーや開発者が有罪になり得る可能性があるとしている。
平野弁護士は「高裁判決が出たからといって、直ちに解析ツールなどの規制が進むわけではない」としながらも、「警察の手には、その気になればいつでも任意の対象を、つまり『あなた』を摘発する権限が渡ります。自由はこうして蝕まれていきます」と警鐘を鳴らしている。
また、刑法では「不正指令電磁的記録の定義があいまいであり、処罰が捜査機関のさじ加減ひとつに委ねられる危険がある」とし、「立法当初から、本罪は濫用(らんよう)の危険が深く危惧されていた」とも指摘。最高裁では、この点についても「どういうことをしたら処罰されるのか」という基準を明確に示さなければならない──という罪刑法定主義(憲法31条)の点から論じるとしている。
こうした現状を踏まえ、平野弁護士は、Coinhive事件に関してIT業界への影響や業界の見解を広く把握するため、意見書を募集するとしている。
平野弁護士は、今回の裁判を通して、インターネットの仕組みやあるべき姿、閲覧者の期待について「議論が深まることはなかった」と説明。「(最高裁では)通常の判断能力を有する一般人の理解が重要だが、審理では一般のWeb利用者の声をくみ上げる仕組みがない」とし、「どうか、皆さまのご意見を最高裁に届けさせてください」と訴えている。
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