「日本版MaaS支援事業」に見る、日本のモビリティにおける課題
諸外国で行われてきたMaaS(Mobility as a Service)の成功例を見ると、その多くが都市圏での実施例だ。慢性的な渋滞、駐車場不足といった課題を解決するための施策として、複数の交通手段を組み合わせるマルチモーダルな経路案内や各種サービスの一元化などの取り組みを進め、都市のDX化を実現しようとしている事例が多い。
日本ではどうだろうか。内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省が連携したスマートシティー関連事業の一事業として進んでいる「日本版MaaS推進・支援事業」は、8月24日にMaaSの社会実装に向けた12の事業を選定したと発表した。
地域ごとのMaaSのテストケースを見ていけば、日本というロケーションで求められるMaaSの姿が見えてくるかもしれない。いくつかの地域の事例を紹介しよう。
特集:移動を変える「MaaS」 シェアリングエコノミーが見せる未来
2021年、電動キックボードの普及に向けた規制緩和が国に認可されるなど、モビリティの分野におけるシェアリングエコノミーが前進しようとしている。これをきっかけに、ITとモビリティが結び付く「MaaS」で世の中がどう変わるのか。
農村地区の高齢化とともに学生の通学も考慮した北海道・芽室町
北海道河西郡芽室町は帯広市の西側、十勝平野に位置する町だ。鉄道・バスといった公共交通が不足しており、タクシー乗務員も不足。そのため農村地区の過疎・高齢化による買い物難民化と、高校生の通学方法の選択肢が極めて限られているという課題がある。
交通弱者に向け、芽室町、NPO法人上美生、JR東日本企画といった自治体・団体・企業で構成される「芽室MaaS」は、芽室町上美生エリアを対象としたサブスクリプション形式の乗り合い型オンデマンド交通サービスの提供を2022年1月より開始する。乗り合いタクシーおよび、自家用有償旅客運送(道路運送法78条)に基づいた車両を使うことになっており、車両のドライバーと商業施設の連携により地域スーパーの日用品買い物代行サービスも提供する。
興味深いのは自家用有償旅客運送だ。地域住民による交通サービス化を目指す為の検証も兼ねており、新たな経済活動を占う施策ともなる。
高齢運転者による交通事故の増加を見据えた群馬県・前橋市
群馬県の県庁所在地である前橋市。高崎市に次ぐ巨大な都市圏を持つ地方都市で、モビリティにおいて公共交通を維持するための財政負担増加や高齢運転者による交通事故の増加といった地域課題がある。
前橋市が幹事となって推進する「MaeMaaS」は、路線を問わずに決められたバス停まで乗っていけるデマンドバスの予約を一元化、また公共バスの位置情報やシェアサイクルを含めたリアルタイム経路検索サービスを提供する。
見据えているのは、利用者にとって使いやすい共通の公共交通プラットフォーム。マイナンバーカードを活用した市民認証・市民割引や、市役所・鉄道駅にサービス窓口を設置し、デジタルデバイスに不慣れな方々にも公共交通機関を活用してもらうことで、高齢運転者の交通事故対策につなげたいものと考えているのだろう。
鉄道・飛行機の介助を一括手配できる「Universal MaaS」
下肢機能障がい、視覚障がいを抱えている方が遠方地であってもためらわず移動できるよう、全日空、京浜急行電鉄、横須賀市、横浜国立大学が進めている「Universal MaaS」は、オンラインでの一括介助手配機能を経路検索サービスに実装することを検討している。
またリアルタイムバリアフリーのナビ機能も実装し、バリアフリーやユニバーサルデザインに考慮した移動手段とその案内、予約システムを一元化することが目的だ。実証実験パートナーには地図情報を扱うゼンリンや駅すぱあとのヴァル研究所といった企業も含まれている。
対象エリアは山手線・横須賀から羽田空港、そして京都・大阪・神戸・福岡近郊のタクシー。また横須賀市内の周遊も視野に入れている。
交通機関ごとに手続きが異なる介助の申し込みが一括して行えるというメリットは、利用者にとっても事業者にとっても大きい。またUniversal MaaSの思想は利用者ごとに異なるさまざまな経路案内を提供するもの。短時間で移動することを目的とした経路案内サービスの新たな軸となりうる可能性を感じる。
週末の一極集中な渋滞を回避する神奈川・三浦
三浦半島は週末となると大規模な渋滞が起こる地域。マイカーやレンタカーによる観光客が一極集中するのが原因だ。
地元住民の生活道路をまもり、観光地としての魅力も高めるべく、「三浦Cocoon」が取り組むのがさまざまなモビリティを組み合わせて新たな観光ルートを設計・発信。旅客が密集=コロナウイルスの感染拡大地とならないようルートの分散を狙う。
興味深いのは、さまざまなモビリティの事業者が共同で拠点開発をする点だ。シェアリング電動キックボード、レンタサイクル、カーシェア、キャンピングカーシェア、遊覧ヘリコプターなどの事業者が集まり、三浦半島に点在する観光ポイントや店舗施設を回遊しやすくなる拠点を整備するという。また車中泊スポットを案内する仕組みも取り入れる。
地域公共交通機関を維持するための仕組みをつくる京都「WILLER mobi」
旅行代理店かつ高速バスや京都丹後鉄道の企業を傘下に持つWILLERは、京都府、与謝野町を共に、京都北部地域でのMaaS実証事業を行っている。人口減少およびコロナ禍によって地域公共交通機関の利用者数が減り、ドライバー不足も課題となっているなか、コロナ禍後の地域公共交通機関を維持するための仕組みを作るのが目的だ。
現在展開しているのは、京丹後市の市街地(与謝野町野田川・加悦エリア)を中心としたエリア内定額乗り放題サービス「WILLER mobi」だ。1人月額5000円で、アプリで登録すれば約10分で車両が到着し、目的地まで乗っていけるリアルタイムオンデマンド交通の検証を行っている。また駅や病院といった、エリア外の主要施設への移動を可能とするルート型オンデマンド交通の導入も予定されている。
今後は地域住民だけではなく、観光やワーケーションで訪れた旅行者の交通の不便を解消するための方向性も考えられている。日本らしいと思える課題もあるが地域ごとの課題を見ていくと、次のような要素が多かった。
- 公共交通がない地域のモビリティ改善
- 使いやすい公共交通の整備
- 自家用有償旅客運送の可能性
- デジタル機器になじみがない世代へのケア
人口減少、少子高齢化、都市圏への人口流出のため、地域公共交通を取り巻く環境は日に日に厳しくなっている。利用者が減り事業規模を縮小せざるをえなくなり赤字路線の廃止は今後も続くと思われる。また高齢者による交通事故が増えてきているが、もし免許返納となった場合、日々の買い物も困難となる地域も多いだろう。
そこで公共交通の再編が、MaaSという形で求められている。スマートフォンを使うことでのキャッシュレス決済も、公共交通を使いやすくするためのキーとなる。電話や窓口受付といったシステムを残そうとするのが日本らしいところと感じるが、これらはあくまで実証実験事業。もしアナログなやりとりの利用者が少ないと分かれば最新の公共交通がDX化と共に成り立っていくものだと考えられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
GMO不正アクセス、犯人側は「27日に顧客のPC攻撃」予告 GMOが端末回収、ホワイトハッカーが解析中
-
2
「楽天トラベル」に不正アクセス 顧客情報最大約260万件など流出か 予約者約3.6万件のクレカ情報も
-
3
GMO熊谷代表「社内ホワイトハッカーが事前に指摘」も対策遅れ、国に「能動的サイバー防御」要請 「責任転嫁では」SNSで批判も
-
4
「年齢は合ってますが、人間ではありません」 6歳の飼い猫に届いた“進研ゼミの案内” なぜ届いたのかベネッセに聞いた
-
5
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
6
「5年でバッテリーが使い物にならなくなる」は本当か テスラ「モデル3」5年目点検で分かったこと
-
7
Apple、「iPad mini」を大幅刷新 8.5インチOLEDとA20 Pro搭載、防水にも対応 11万9800円から
-
8
ジョーシンへの不正アクセス、最大623万件漏えいか 運転免許証2件・マイナカード1件なども
-
9
グッスマに不正アクセス、公式EC閉鎖 会員の住所や注文履歴など漏えいか 再開目処立たず
-
10
野村総研、サイバー攻撃時の「能動的なシステム停止」を支援する新サービス
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR