小寺信良のIT大作戦
古い動画をきれいにするAI技術で「勝手リマスター」が起こる?(2/2 ページ)
「ローカルでアップコン」がもたらす世界
映像の高解像度化は、実は日本人なら毎日体験している技術だ。ご存じのようにテレビの地上波放送はHD解像度しかないが、家庭の4Kテレビには4K解像度で表示されている。HDと4Kは解像度で4倍違うので、映像は常時4倍拡大されている事になる。
写真やイラストなどを扱う人ならお分かりかと思うが、低解像度の画像を単純に4倍拡大したら、ぼやけてしまって画質が大幅に劣化したのを感じるはずだ。だがテレビを見ていて、大幅な画質劣化は感じないはずである。これはテレビ内のアップコンバーターが、単純拡大ではなく「超解像技術」で処理しているからだ。
従来の超解像技術も機械学習ベースであるとされてきたが、2000年代レベルの技術である。これを今レベルのAIと最先端GPUでゴリゴリやっていこうというのが、「VSR」という事になる。現在VSRが対応する動画は、ビデオの縦横いずれの解像度も192ピクセル以上、720p以下となっている。
これまで高解像度の映像コンテンツは、撮影・編集・アップロードまで一貫して高解像度で制作してきた。4Kはデータ量も大きいが、コーデックを工夫するなどしてなんとかブロードバンド回線でも視聴できるようになったところだ。
だがこうした、AIとローカルのGPUパワーを使った高解像度化処理が当たり前になってくれば、ユーザーがアップロードする映像は720pでも十分、なんなら480pぐらいでも十分きれい、という事になるかもしれない。そうなれば、クラウドストレージはもとより、データトラフィックも大幅に下がることになる。むしろ4Kや6Kでデータを上げるVloggerは、「無駄にデカいデータ上げやがって」と迷惑がられる時代が来るかもしれない。
実際ローカルコンピュータのGPUを常時使い倒しているという人は、ゲームユーザー、CG・動画編集が仕事の人、データマイニングする人などに偏っており、多くのPCユーザーのGPUパワーは余り気味ではないだろうか。現時点でのVSRは高レベルのGPUパワーが必要だが、もう少し処理がこなれてくれば、多くの人が自分のGPUにかかったコストを回収できるだろう。
「勝手リマスター」の懸念
3月1日、仮面ライダーの旧テレビシリーズが、16mmオリジナルネガフィルムを再度スキャンし4Kリマスター化した、「仮面ライダー4KリマスターBOX」として発売されるというニュースもあった。仮面ライダーは「シン・仮面ライダー」により、期待が高まっているコンテンツだ。
だがあまり世間から注目されていない、個人的マイブームな古いコンテンツも、VSRで4Kリマスターしたような画質で見られるようになる可能性もある。あるいは自分の子どもをDVテープで撮影したような古い動画も、いったんクラウドに上げてブラウザ経由で見れば、リマスター視聴が可能になるかもしれない。
このように多くの可能性を秘めた技術ではあるのだが、ある意味こうした「勝手4Kリマスター」を無断でリマスター作品として販売するような行為が発生しかねない。こうした抜け道はDRMでふさがれることになるだろうが、抜け道は常に存在する。
多くの人は、リマスター作品と言えば上記の仮面ライダーのように、版元がオリジナルネガからやり直したものだと思ってしまうだろう。この技術の扱いが難しいところは、元データの品質が低くても、高解像度化できるところである。つまり処理によって元データよりも良質になってしまうことから、元データが何だったのか、出所がどこなのかがつかめなくなる可能性がある。もちろんコンテンツとしては同一なのだが、「海賊版のほうが良質」では、むしろ海賊版の方がオリジナルと言い張るパターンもあり得る。
現在の地上波放送を4Kで見る場合は、あくまでも視聴のためのその場限りの変換だから許されているのであり、4K放送の録画はDRMで厳しくコピー制限されている。それゆえ著作権的にはクリアされているが、現在のレコーダーの衰退を見れば分かるように、使い勝手がいいものにはなっていない。
VSRは、「コンテンツ視聴のためのコンピューティング」という道を開く技術だ。ローカルで行なうリマスタリングを使い勝手の悪いものにしてはいけないし、違法なコンテンツは買わずに通報という道筋をしっかり付けていきたい。
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小寺信良のIT大作戦
ベテランのテクノロジーライターである小寺信良さんがIT分野全般にわたって考察する。
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