「攻めた設計」の結果か JAXA「SLIM」総括会見で明かされたスラスター脱落に至った推定シナリオ(2/2 ページ)

「SLIM」が成し遂げたこと、そして今後

月面ではマルチバンド分光カメラにより岩石やレゴリスの科学的観測を行った

 目標地点から60mほどずれたとはいえ、SLIMはそれまでの数km~十数kmの着陸地点精度を100mオーダーに引き上げることに成功。当初から目指していた「従来の『降りられるところに降りる探査』から、『降りたいところへ降りる探査』へのパラダイムシフト」を実現した。

 坂井マネージャは「この技術は今後、サステイナブルな(持続可能な)月惑星探査を行うために必須の技術。技術的な成果にとどまらないインパクトを有する成果」と胸を張る。

 また、SLIMは着陸寸前に2つの小型ロボット(探査プローブ)を放出し、これらが連携して月面に逆立ちするSLIMを写した。とくに撮影した「SORA-Q」はタカラトミーが中心になって開発したということもあり「宇宙業界への参入障壁が低くなっていることを民生業界にアピールできた」という。

タカラトミー、JAXA、ソニーグループ、同志社大学による「SORA-Q」イメージ図

 “越夜”を想定していなかったSLIMが、結果として3回の夜を越えて動作を確認できた点も大きい。「各種の機体データを取得できた。例えば越夜の後は、探査機内部の各部の温度が高くなっていた。越夜が探査機に与える影響など、なんらかの知見が得られる可能性が高い」としている。

 何度も通信できなくなりながらも復活を繰り返したSLIMは、日本中の注目を集めた。SLIMプロジェクトの公式Xアカウント(@SLIM_JAXA)の投稿は、閲覧数が数百万に達するものが複数あり、着陸運用のライブ配信は同時接続数30万以上を記録。YouTubeのアーカイブは200万回以上再生された。「ネットを通じて社会への訴求ができたと思う」。

 そしてもう一つ。SLIMは、NASAとの国際協力の一環として、リフレクター(反射板、LRA)を搭載していた。月周回軌道からレーザーを照射して反射光を調べることで、精密な測距が行える。5月には実際にNASAの月周回機「LRO」(Lunar Reconnaissance Orbiter)がレーザー測距に成功している。「NASAは継続的に測距を試みるとのこと。SLIMは、今後も月面上で測距の標的・基準点としての役割を果たし続ける」(坂井マネージャ)

 SLIMの運用は8月26日に終わった。JAXA内での手続きが完了するとSLIMプロジェクトも解散するが、SLIMにはまだ役割が残っているようだ。

印刷する
SNSでシェア
SpecialPR

この記事の著者

関連記事

こんなメディアも見られています

ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。

メールマガジンを配信中
メールマガジンを配信中

国内外の業界動向、AIやクラウドなどの最新技術、キャリア情報など今知りたい情報をまとめてお届けします。

いますぐご登録

本日の新着記事

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

ITmedia NEWS SNS

X @itmedia_newsをフォロー

インフォメーション

ITmediaNEWSをフォロー

あなたにおすすめの記事PR