「自社が買収され働き方激変」は突然やってくる──そのとき、SIer・SES・IT部門はどう変わるのか(1/4 ページ)
近年、IT業界においてM&Aのニュースを目にする機会が増えています。スタートアップの買収、大手企業同士の統合、SES企業の大型再編など、その形態はさまざまですが、現場にとっての体感は共通しています。それは「ある日突然、自分の所属する会社が変わる」ことです。
M&Aの特徴として、極めて限られた経営層にしか事前共有されない点があります。CEOやCFO、場合によっては広報責任者程度にしか知らされず、プレスリリース(報道発表)当日に初めて従業員が知るケースも珍しくありません。さらに現在、M&Aは単なる企業イベントではなく、AI時代におけるIT業界の構造変化とも密接に結びつき始めています。
とはいえ従業員にとっては、日常の延長線上で突然環境が変わるイベントであり、そのインパクトは想像以上に大きいものです。本稿では、M&Aの基本的な前提を踏まえつつ「もし明日自社が買われたら、会社はどう変わっていくか」を、主にIT部門、SIer、SESといった現場の視点で整理します。
著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)
合同会社エンジニアリングマネージメント社長。博士(慶應SFC、IT)。IT研究者、ベンチャー企業・上場企業3社でのITエンジニア・部長職を経て独立。大手からスタートアップに至るまで約20社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、評価給与制度作成、組織再構築、ブランディング施策、AX・DXチーム組成などを幅広く支援。
M&Aは「何のために行われたのか」で全てが変わる
M&Aという言葉は一くくりにされがちですが、その目的は多様です。そして、この目的の違いが、統合後の現実を大きく左右します。
例えば、人員の確保を目的としたM&Aであれば、買収された側のエンジニアはそのまま稼働力として期待されます。一方で、特定のプロダクトや技術の取得が目的であれば、事業や組織は再編される可能性が高くなります。また、シナジー創出を掲げた統合であれば、両社の連携が前提となりますが、経営リソースの効率化が主目的であれば、重複機能の整理が進むことになります。
重要なのは、経営統合を推し進める立場から見たとき、これらに優劣はないという点です。いずれもビジネス上の合理的な判断であり、問題はその前提が現場に共有されないまま進むことにあります。現場が「シナジーを期待されている」と思っていたとしても、実際には「コスト削減」が目的であれば、評価や人員配置の方針は大きく食い違います。
このズレが、統合後の不満や混乱の出発点になります。
カルチャー統合はなぜ失敗するのか
例えば、M&Aにおいて頻繁に語られるカルチャーマッチ。現場ではこれが最も難易度の高い領域の一つです。
そもそも企業文化とは、意思決定の速度、リスク許容度、コミュニケーションスタイル、評価の考え方などの集合体です。これらが異なる組織同士を単純に統合しただけでは、自動的にシナジーが生まれることはありません。
むしろ現実には、意思決定プロセスの違いによる摩擦や、評価基準の違いによる不信感が生まれ、「1+1は10になるはずだったが、2にも届いていない」という状態が発生します。これは珍しいケースではなく、むしろよく観察される現象です。
このため、M&Aを繰り返している企業の中には、統合時のコミュニケーションに関するルールを明文化しているところもあります。例えば「旧会社では~」という発言を禁止する、過去のやり方の優劣比較を避けるといった運用です。一見すると過剰にも思えますが、それだけ文化衝突が再現性の高い問題であることを示しています。カルチャーは統合されるものではなく、調整され続けるものという認識が必要です。
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