小学館「マンガワン」問題、第三者委が報告書 3つの行為を“人権侵害への助長・加担”と指摘
小学館は8月3日、マンガアプリ「マンガワン」で、過去に性加害行為をした人物を別名義で原作者に起用していた問題などを巡り、第三者委員会の調査報告書を公表した。報告書は個別事案への対応に加え、複数の編集室でパワーハラスメントに関する申告があったことや、編集長への権限集中、編集者と作家らの間に生じる力関係など、問題の背景にある構造的な課題を指摘した。
●「堕天作戦」作者への対応、3つの行為を問題視
マンガワンを巡っては、「堕天作戦」の作者・山本章一氏を「一路一」名義で「常人仮面」の原作者に起用していたことが問題になっていた。山本氏は高校教員時代、勤務先の女子生徒に性的行為をし、その後、児童ポルノ禁止法違反で罰金刑を受けた。小学館は被害女性からの申し出を受け、「堕天作戦」の連載再開を延期し、2020年9月に無期限で停止した。
今回の報告書によると、小学館は連載休止後も山本氏との契約を維持し、将来の連載再開を見据えて原稿の執筆を継続。最終的に公開されなかった原稿にも報酬を支払っていたという。被害女性が22年7月に山本氏へ損害賠償を求める訴訟を起こすと、小学館は同年9月27日に「堕天作戦」の契約を解除。支払済みの未発表原稿への報酬は山本氏から全額返還され、同作品は10月末に「マンガワン」での連載を終了した。
第三者委員会は、担当編集者が山本氏と被害女性の示談交渉に関与していた件についても言及した。担当編集者は被害女性の求めを受けて交渉に参加した後、示談金の支払い方法や条件を提案するなど、当事者間の意思疎通を補助する範囲を超えて関与していたという。
さらに小学館は、民事訴訟が続き、被害弁償などの救済も実現していない中、22年12月に山本氏と「常人仮面」の契約を結び、取引を再開した。
第三者委員会は、こうした対応のうち、(1)連載休止後も山本氏への原稿料の支払いを続けたこと、(2)担当編集者が示談交渉に実質的に関与したこと、(3)民事訴訟中に「常人仮面」の連載を始め、山本氏との取引を再開したこと――の3点について、被害女性への人権侵害を助長、または加担したと評価されてもやむを得ないと指摘した。
●「星霜の心理士」では情報管理などを問題視
また、同社は、強制わいせつ罪で有罪判決を受けた「アクタージュ act-age」原作者のマツキタツヤ氏を、「八ツ波樹」名義で「星霜の心理士」の原作者に起用していた。第三者委員会は、起用時点ではマツキ氏による人権侵害が続いたり、再び生じたりする具体的な懸念は認められなかったなどとして、同氏の起用は人権侵害への助長・加担には当たらないとした。
ただし、情報管理には不備があったと指摘。社内データベースでは、「八ツ波樹」がマツキ氏であることを社内で広く把握できる状態になっていたほか、一部の編集者が、その事実を示唆する発言を社外で行っていた。委員会は、被害女性の二次被害防止やマツキ氏のプライバシー保護への配慮が不十分だったと指摘した。
報告書は、「週刊ポスト」の元編集者が取引先の女性2人に性的な要求や言動を繰り返していた事案も取り上げた。小学館は20年に1人目の被害を把握し、21年に減俸1カ月の懲戒処分としたが、類似事案の調査や部署異動などは行わなかった。その間も別の女性に胸元の写真の送付などを求める行為が続き、25年に発覚。委員会は、20年の時点で十分に対応していれば2人目へのさらなる被害を防げた可能性が高いと指摘した。
●背景に潜む構造的なリスク
第三者委員会は、これらの事案には共通する組織的な課題があったと分析。人権侵害に対する意識・感度が不足していたほか、重要な判断を編集長限りで行い、上位役職者や法務などの管理部門によるチェックが働きにくい体制だったと指摘した。編集者と作家らの力関係から生じる人権リスクを把握し、防ぐ仕組みも不十分だったとしている。
第三者委員会が設けたホットラインには、社内外から計44件の申告が集まった。複数の編集室について、上司や先輩、教育係などによる威圧的な発言や長時間の叱責、人格を否定するような発言、物を投げたり椅子を蹴ったりする行為、深夜・休日の対応や宴会芸の強要などがあったとの申告が寄せられた。こうした行為によって精神的に不調を来し、通院や休職、退職を余儀なくされた人が複数いるとの申告もあった。
申告者からは、その背景として、「売れた」作品を担当した実績を過度に重視し、実績のある編集者には上層部も注意や是正を行いにくい風潮があるとの指摘が出た。編集者としての能力を重視する一方、部下や編集室のマネジメント能力を十分に評価しないまま、管理職に登用する場合があるとの声もあった。
また、「編集権」の名の下で編集長に大きな権限が集中し、上位役職者や取締役によるけん制や是正が働きにくいとの指摘も寄せられた。ハラスメント窓口に申告しても事態が大きく進展した例がほぼなく、社内では「訴えても無駄」との認識が広がっているとした申告者もいた。
作家らからは、担当編集者の言動に関する申告も複数寄せられた。一度承認したネームの変更や深夜までの修正対応を一方的に求める行為、「メンタルが弱いとやっていけない」などの強圧的な発言、他社での連載の進行を事実上制限する行為、連載開始時期や回数を無断で変更する行為などがあったという。精神的に追い詰められ、通院や休載、連載終了を余儀なくされたとの申告もあった。
ただし、第三者委員会は、ホットラインに寄せられた全ての申告について個別の事実認定や評価を行ったわけではない。本事案や類似事案の背景事情を理解し、原因やガバナンス上の問題点を検討するための材料として扱ったとしている。
報告書は、出版事業では、編集者が作品の掲載や連載の継続、単行本化、メディア展開などを実質的に左右し得るため、フリーランスや個人事業主が多い作家、原作者、ライターらとの間に「権力の不均衡が構造的に生じやすい」と指摘した。一方、作品がヒットして作家らの影響力が大きくなれば、編集者側が問題を指摘しにくくなるなど、逆方向の力関係も生じ得るとした。
●小学館による再発防止策と経営責任を公表
小学館は8月4日、第三者委員会の調査報告書を受け、再発防止策と経営責任を公表した。外部専門家を含む人権委員会を設置し、出版活動全般の人権リスクを整理・評価して予防や是正につなげる「人権デュー・ディリジェンス」を実施する。全役員・従業員への人権や性暴力・ハラスメント防止に関する研修も定期的に行う。
外部クリエイターや取引先に人権侵害の懸念が生じた場合は、編集部門に加え、法務などの管理部門も関与する仕組みを整える。既存の通報窓口も再整備するほか、人権侵害を受けた人の申告を受け、対話や是正、救済につなげる「グリーバンスメカニズム」を導入する。
また、経営責任を明確にするとして、代表取締役の相賀信宏社長ら役員26人が月額報酬の一部を3カ月間、自主返納する。相賀社長は50%、専務取締役2人は30%などを返納する。従業員についても、就業規則に基づき厳格に対応するとしている。
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