経営「AIでラクして早く帰って」→社員「帰らない」 工数最大9割減のDeNAも悩むAI効率化の壁(1/3 ページ)
「効率化とは、仕事を減らすことではなく、同じ時間に詰め込める仕事を増やすことだった」──8月に話題になった「はてな匿名ダイアリー」の記事で、匿名の投稿者は「AIで効率化したのに仕事は一向に楽にならない」と書き、SNSの話題を席巻した。
実際にAIオールインを掲げるDeNAの南場智子会長も、講演で「楽になった分、(現場は)仕事を詰め込む。自ら」と語っている。AIによって6~9割の工数を削減できた業務があるにもかかわらずだ。働く側は仕事が増えたと訴え、経営側は人が浮いてこないと嘆く。AIは確かに時間を生んでいる。しかし、その時間はどこへ消えているのか。
「8時間で1件」が「8時間で2件」になるだけ
8月3日、はてな匿名ダイアリーに「AIで仕事を効率化したら、なぜか僕の仕事だけ増えた話」という記事が載り、SNSで話題になった。周囲から「真面目だ」と言われてきた投稿者が、良かれと思ってAIの活用法を検証し、社内に共有してきた話だ。しかし、8時間の仕事を4時間に縮めると、次からその仕事は「4時間で終わる仕事」になり、残った4時間には別の仕事が入る。
結局、「8時間働いていた人がAIによって4時間で帰れる」のではなく「8時間で1件やっていた人が、8時間で2件やる」ことになるだけだった、と投稿者は書く。共有した本人には説明や教育、質問対応が集まり、給与は変わらない。投稿者は自分を「迷惑なサンタクロース」と呼んだ。
「THE日本企業あるある」という共感と、AIで書いた作り話ではないかという反発で反応は割れた。だが、短縮した時間が別の仕事に使われ、労働時間の短縮に直結しない傾向は、調査にも表れている。AIで浮いた時間は、誰が何に使っているのか。
作業は速くなった、仕事は減っていない
パーソル総合研究所の「生成AIとはたらき方に関する実態調査」によると、生成AIで個々のタスクにかかる時間は平均16.7%(週26.4分)短くなった。しかし、業務時間そのものが減った利用者は25.4%にとどまる。
業務時間を削減できた人は浮いた時間の61.2%を仕事に使っており、その時間で仕事をすると答えた人の75.4%が使途に日常業務を挙げた(複数回答)。タスクが速くなった分だけ早く帰れるという関係にはなっていない。
同研究所の田村元樹氏(シンクタンク本部)は、労働時間の枠が変わっていないことが原因と見る。「ズバリ言うと、週40時間の労働は変わっていない」。タスクは速くなっても、週40時間という枠と業務の総量は見直されていない。
例えば既存タスクが、AIで100から50に減ったとする。そこに「AIの使い方を教える、社内に広める」といった新しいタスクが乗る。それが50なら総量は変わらず、100なら総量は150に増える。「効率化した分にさらにプラスのものができると、総量は150になる」と田村氏。仕事の量はもともと週40時間に合わせて組まれているから、そこに新しいタスクが乗れば枠からはみ出す。はみ出した分が残業になる。間延びした分だけ残業時間が増えるわけだ。
では、個人の作業が速くなった分は、会社の生産性の数字に表れているのか。田村氏は労働生産性の式に表して考える。分子は付加価値、分母はそれを生み出すのにかかった労働量で、生産性はその割り算だ。
田村氏の見立てでは、AIが縮めているのは分母の側だ。同じものを作る時間が半分になれば計算上の生産性は倍になるが、分子の付加価値が増えたわけではない。「AIを使ったから値上げします、とは絶対にできない」(田村氏)
そして誰もが同じツールを使えば品質は一緒に上がり、差はつかないと見る。付加価値が増えず、週40時間の労働も変わらなければ、分母すら実際には減っていない。速くなったように見えているだけの場合もあるという。
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