経営「AIでラクして早く帰って」→社員「帰らない」 工数最大9割減のDeNAも悩むAI効率化の壁(2/3 ページ)

「早く帰って」と言っても帰らない DeNAで起きたこと

 経営の側も同じ現象に直面している。DeNAは2025年2月に「AIオールイン」を宣言した。AIを活用して約3000人の現業を半分の人員で回し、残りを新規事業に振り向ける構想だ。南場智子会長は講演で、法務によるツール利用規約のチェックは9割、ライブ配信サービス「Pococha」の配信審査は6割の工数を削ったと語った。業務フローを書き換える1年がかりの作業だったという。

 それでも、新規事業への人材シフトは思うようには進まなかった。楽になった分だけ、社員が自ら仕事を詰め込んだからだ。「DeNAのメンバー、真面目ですからね」──南場氏はそう語り、シフトが「思ったほど進んでいない」と認めた。

 施策を担う金子俊一氏(グループエグゼクティブ IT本部本部長)も「仕事が早く終わっても、早く帰らないですよね、日本人って」と話す。金子氏は「楽になってサボってくれるなら、成果が出ているので全然ウェルカム。早く帰ってくれ」と社内で言って回っていたという。だが返ってきたのは「楽にはなっていない」という声だった。

 金子氏の見立てでは、浮いた時間は資料の精度を上げる、プログラムを書く量を増やす、じっくりレビューする、といった仕事に流れていた。2週間に1回だった1on1ミーティングを、手が空いたので週1回にしたマネジャーもいる。「決して無駄ではない。ただ、時間が空いたらこれをやりたいと思っていたところに、どんどん作業工数が流れていっている」(金子氏)

 社員から見れば、作業は倍の速度で回るようになった。だが「人をファイア(解雇)でもしない限り、人件費は減らない」──現場の生産性と経営指標のギャップは、時間がたてば埋まる種類のものではないと金子氏はみる。

現場は「この仕事をなくす」と決められない

 浮いた時間が、本人のやりたかった仕事で埋まるなら、それを止められるのは本人ではない。田村氏は、組織として「減らす業務」を同時に検討していないことが一番の問題とみる。「(社員)個人が、この仕事をなくそうとはできない。会社やマネジャーなど、もう少し上のレイヤーからの仕組みや働きかけが必要」(田村氏)

 AIを広める仕事も同じ問題に直面している。会社はAIの導入まではするが「あとは現場で頑張ってね」と個人の善意に頼る。パーソルの調査でも、ヘビーユーザーほど関心の低い人に教える負担が大きく、その仕事は正式な評価にも業務にも位置づけられていない。「本当にボランティアワークだと思います」(田村氏)

 解決策はあるのか──田村氏は組織が導入すべき4つの条件を提示する。(1)普及や推進を正式な業務に位置づけること、(2)そのための業務時間を確保すること、(3)(AIに関連する取り組みを)評価基準に入れること、(4)そして個人ではなくチームと上司の支援を受けること──だ。

印刷する
SNSでシェア
SpecialPR

この記事の著者

斎藤健二
斎藤健二

金融ジャーナリスト Facebook:kenji saito (https://www.facebook.com/kenjisaito) Twitter:@3itokenji (https://twitter.com/3itokenji)

関連記事

こんなメディアも見られています

ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。

メールマガジンを配信中
メールマガジンを配信中

国内外の業界動向、AIやクラウドなどの最新技術、キャリア情報など今知りたい情報をまとめてお届けします。

いますぐご登録

本日の新着記事

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

ITmedia NEWS SNS

X @itmedia_newsをフォロー

インフォメーション

ITmediaNEWSをフォロー

あなたにおすすめの記事PR