「AI導入したのに、仕事が楽にならないんだが?」の正体 虚空に消えるあなたの“削減時間”、その行き先は……(1/4 ページ)
AIの普及に伴い、「海外企業がAIで数万人を削減」というニュースが毎週のように流れてきます。しかし自分の職場を見渡すと、AIを導入したのに残業は減っていないし、人が減る気配もない。減ったのは作業時間のはずなのに、増えているのはAIの利用料だけ──という人も多いかもしれません。この落差が、いま多くの現場で共有されている感覚だろうと思います。
先日、ITmedia NEWSで「『生成AIで仕事が楽に』のはずが……IT現場を蝕む“AI疲れ・AIうつ”の正体」という記事を書きました。実装が速くなった分だけ意思決定の回数が増え、手を動かす疲れが考え続ける疲れに置き換わった、という話です。同様の傾向はまだありつつも、筆者の周辺では、聞こえてくる声が少し変わってきています。「疲れた」ではなく「結局、楽になっていない」になっているのです。
とはいえ、AIがもたらす業務の削減効果は今更疑うべくもありません。となると「効果がない」のではなく「効果がどこかに消えている・吸収されている」と考えるのが自然でしょう。いったいAIによる効率化の成果はどこに消えているのでしょうか。
効果が“測定”で消えている
最初に疑うべきは、業務ではなく測定の問題です。
あるセミナーで、AIによる業務効率化の成果として「1年で6時間の削減をしました」「年に1度ある15日かかっていた作業が、15分で終わるようになった」といった事例を聞いたことがあります。
どちらも削減自体には成功してはいます。特に後者は数字としては劇的にも見えますが、頻度としては年に1度。開発にかけた金額と時間で考えれば、担当者の負担軽減効果は誤差の範囲に収まります。
こうした「実はあまり負担軽減できていない」数字が出てくるのは、導入前のベースラインを誰も測っておらず、導入後に「何か測れるものはないか」と探した結果に過ぎないためです。本来は事前に工数を棚卸しし、削減効果を比較するべきですが、とりあえず導入だけした結果、たまたま測れた小さな業務の数字が報告書に載る……とった具合に、手順が逆になっているわけです。
さらに致命的なのは、浮いた時間の“行き先”が定義されないこと。仮にAIで1日30分が浮いたとして、その時間をどうするか──例えば残業の削減に充てるなど、事前に決まっていなければ、担当者には別の業務が静かに流れ込みます。
経営側も、時間削減の“その先”が決まっていなければ、効果が実感できないのは同様です。特に悲惨なのは、経営と現場、それぞれが考える“効果の単位”のズレが表出するケース。経営が期待しているのは人数や金額の改善ですが、現場が出せるのは時間をどれだけ削減できたか。要するに双方の“換算ルール”が決まっていないので、いくら現場が成果を積み上げても経営層の「で、いくらもうかったのか」で話が進まなくなります。
時間削減はコスト削減そのものではありません。業務削減の結果として人が減らず残業も減らなければ、損益計算書には1円も現れません。
「ツールを解約できた」の危うさ
AI活用の成果として、独自ツールの内製が容易になり、結果としてSaaSなどのツールを解約できた、という報告も目にしますが、こうした例も注意が必要です。
そのツールが法制度の改変に追従する必要がある領域を扱っていたり、周辺サービスとの調整コストが高かったり、セキュリティ要件がシビアだったりする場合、内製に切り替えることで対応に人員が張り付くことになります。積み上げれば、SaaSを使い続けた方が低コストだったという結論は十分にあり得ます。
ライセンス費用は請求書として目に見えますが、内製の保守工数は誰かの残業時間に紛れて見えません。慣れたツールからのUI/UXの変化が利用者の不満を招く点も見落とされがちです。
そして、ツールを解約した先に待っているのは自前で面倒を見る仕事です。これはSaaSに限りません。利用ガイドラインの策定、ガードレールとログの整備、シャドーAI・シャドーITの検知、情報漏えい時の対応手順、社内からの問い合わせ窓口、そしてトークン従量課金という予測しづらい変動費の管理……いずれもAIを導入しなければ存在しなかった業務です。
効果測定に当たって、こうした増加分が削減分から引かれないこともしばしばあるでしょう。その場合、本来は効率化の推進役であるはずの情報システム部門が、効率化によって最も業務が増えた部署になるかもしれません。
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