「AI導入したのに、仕事が楽にならないんだが?」の正体 虚空に消えるあなたの“削減時間”、その行き先は……(4/4 ページ)

「人を減らせない」日本はどうするべきか

 では日本のように、そもそも人員を減らせない国はどうするべきか。筆者は「減らせないから効果が出ない」で止まらず、「減らせないからこそ、再配置の設計が唯一の回収手段になる」と考えます。

 まずは導入前に現状の工数を測り、何がどれだけ変わったら成功と見なすかを経営と現場で合意すること。AIで速くする前に、その業務をやめられないかを先に判断すること。検証が安い領域から着手すること。

 そして、負荷の移転先と再配置先を先に手当てしていること。メンバー層の生産性を上げるならレビュー体制の増強を同時に計画し、浮いた工数を新規事業や採用できていないポジションの穴埋めに充てると決めている──成功の十分条件ではありませんが、これらを決めずに始めた組織が後から効果を説明できているケースには、筆者はまだ出会っていません。

成果を決めるのは「浮いた時間の行き先」

 「AIを導入したけれど、楽になっていない」という声の多くは、AIが期待外れだったという話ではないように思います。効果の出口を決めないまま始めた結果、効果が測れず、他の業務に吸収され、別の担当者に移転され、新しく増えた運用業務に相殺されて消えていったという顛末です。削減できた工数をコスト削減としてだけ回収しようとすれば、組織の選択肢は縮小以外にありません。

 しかし、生成AIが抱える、業務効率化の成功が省人化に至るという構造的な緊張も無視できないでしょう。筆者の見解にはなりますが、現在の生成AIブームは、17年4月に滋賀大学へ日本初のデータサイエンス学部が設置され、機械学習や深層学習の流れが民間へ広がった延長線上にもあると考えています。

 しかし20年ごろ、データサイエンティストの中には「自分たちの墓を掘っているような感覚になることがある。リリースして運用に乗ってしまえば、自分の仕事は大幅に減ってしまう」とこぼす人たちがいました。いま同じ不安が、ホワイトカラー全般に広がり始めているように見えます。華やかに見える一方で、根っこのところは殺伐としているわけです。

 今は全国的に「AIをとにかく使え」という話になっていて、利用料金も拡大しています。AIで爆速で事業を立ち上げ、その結果として雇用が生まれ、給与も上がった──そういう話にしていかない限り、“ジリ貧感”からは抜けられないのだろうと思います。

 いま起きているのは技術の問題ではなく、効果の“出口”を経営が定義しているかどうかの問題です。浮いた時間を何に使うかが決まっていない組織で効果が乏しく見えるのは、むしろ当然のことです。そして残念ながら、その答えまではAIはまだ出してくれません。

著者プロフィール:久松 剛(エンジニアリングマネージメント 社長)

合同会社エンジニアリングマネージメント社長。博士(慶應SFC、IT)。IT研究者、ベンチャー企業・上場企業3社でのITエンジニア・部長職を経て独立。大手からスタートアップに至るまで約20社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、評価給与制度作成、組織再構築、ブランディング施策、AX・DXチーム組成などを幅広く支援。

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久松 剛
久松 剛

合同会社エンジニアリングマネージメント社長。博士(慶應SFC、IT)。IT研究者から、ベンチャー企業・上場企業3社でのITエンジニア・部長職を経て独立。大手からスタートアップに至るまで常時複数社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、評価給与制度作成、組織再構築、広報、AX・DX・FDEチーム組成などを幅広く支援。

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