「AI導入したのに、仕事が楽にならないんだが?」の正体 虚空に消えるあなたの“削減時間”、その行き先は……(2/4 ページ)

ボトルネックが消えたのではなく、移っただけ

 もう一つは、業務のボトルネックをAIで解消したと思いきや、実は場所を変えただけだった、というケースです。

 AIの登場により、メンバー層の作業速度は明らかに速くなりました。しかし、そのレビューはヒトが担っています。依頼が届くペースは上がったのに、レビューできる人数と時間は変わらない。ここも「楽にならない」の原因です。

 特に悩ましいのは、メンバー層が盲目的にAIを使っているケース。依頼は早く上がってくるのですが、なぜその設計にしたのかを本人が説明できない。レビューをAIに任せるにも、AIの挙動を制御する“ガードレール”や“ハーネス”といった仕組みの整備が追いついていないため、結局ヒトが主軸から降りられません。

 ここで起きているのは削減ではなく、負荷の移転です。組織全体の総工数は減っておらず、最も代替の効かないシニア層に負荷が集中している。個人の生産性で見れば改善なのに、組織のスループットで見ると悪化している。この単位のズレが「現場は速くなったと言うのに成果物が出てこない」という状況を生みます。

 これは一部の現場だけの話ではありません。米Googleなどによる調査でも、生成AI導入によって生産性が一時的に低下する理由として、(1)ツール習熟の学習コスト、(2)生成コード量の増加に伴う品質検証の負担、(3)テストやレビューといったパイプラインの適応遅れ──が挙げられ、導入初期に生産性が落ち込む「J字カーブ」として整理されています

 ただし留意しておくべきなのが「効かない」と「まだ効いていない」は別だということ。J字の底で効果測定をしてそのまま撤退判断をしている組織は少なくないはずです。ただし、パイプラインの詰まりを直さない限り、時間が経っても底に留まり続けます。

「上流」と「制度」は速くならない

 同様の事態は、上司部下やシニア・ジュニアの関係だけでなく、部門間や制度の問題でも起こり得ます。筆者自身の経験談にはなりますが、社内向けの管理画面を開発していた際、利用部門が4部門にまたがっていたことがあります。この4部門がそれぞれ競合するリクエストを、4部門とも「優先度高」で出してくる。取りまとめだけで時間が溶けていきました。

イメージ画像(Adobe Stock)

 仕様が固まらなければヒトも動けませんし、AIも動けません。AIに優先順位を付けさせるアプローチはありますが、問題は精度ではなく受け入れです。誰かの要望が後回しになるという政治的な決定を、AIの判断だからという理由で関係部署が飲めるとは限りません。

 社内の制度側も同様です。仮にAIで開発や作業が速くなっても、稟議も決裁も変更管理も、証跡の取得も監査対応も速くなるわけではありません。むしろAI生成物が増えるほど、その判断の根拠を説明する責任は重くなります。

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この記事の著者

久松 剛
久松 剛

合同会社エンジニアリングマネージメント社長。博士(慶應SFC、IT)。IT研究者から、ベンチャー企業・上場企業3社でのITエンジニア・部長職を経て独立。大手からスタートアップに至るまで常時複数社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、評価給与制度作成、組織再構築、広報、AX・DX・FDEチーム組成などを幅広く支援。

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