「AI導入したのに、仕事が楽にならないんだが?」の正体 虚空に消えるあなたの“削減時間”、その行き先は……(3/4 ページ)

AIで効率化する業務が間違っている

 最後は、AIを活用する対象の選定です。

 AIでの効率化や業務改善・刷新を実施するからには、極端に言えば派遣社員やアルバイトの稼働を減らせるくらいのインパクトがなければ、現場に実感は生まれません。AI投資に息巻いていた経営者もがっかりするでしょう。

 特に根が深いのは、ボトルネックではない工程を速くしてしまったケース。プロジェクト全体のリードタイムは最も遅い工程で決まるため、見積書の作成が3日から3時間になっても、その後の承認に2週間かかるなら顧客から見た速さはほとんど変わりません。

 厄介なのは、この失敗が報告書の上では成功に見えることです。各部署が個別最適でAIを導入し、それぞれの削減時間を報告する。足し算すれば立派な数字になりますが、その合計は事業のリードタイムにも人員にも収益にも現れない。「現場は削減できたと言っているのに、経営には何も見えない」という状態の正体は、大抵がこの現象です。

人手不足の常態化が、浮いた工数を吸っていく

 一連の課題をまとめると、日本企業で起きているのは「人手不足が常態化しているため、削減できた工数が未充足の仕事に吸収されている」という見方が最も実態に近いと言えるでしょう。採用できていないポジションの仕事が、浮いた時間に静かに流れ込む。だから雇用も残業も変わらず、体感だけが「楽になっていない」になります。

 ただし、冒頭で述べたような海外勢が先行し、人員削減で成功を手にしているかと言えば……必ずしもそうとは言い切れません。

 英RationalFXの集計によれば、2025年にテクノロジー業界で発生したレイオフは、全世界で約24万4851人でした。うち米国が約17万人で全体の69.7%、日本は約1万1608人で4.7%程度。企業別では米Intelが3万4000人、米Amazonが1万4000人でした。なお集計は各社の公表ベースで定義に幅があるため、桁感として読むのが適切でしょう。

 ただし米国では、AIが本当の理由なのかどうかが疑われています。ITmedia AI+の解説記事は、コロナ禍の過剰採用の巻き戻し(Microsoftの従業員数は15年の12万8000人から24年に22万8000人まで増えました)や税制改正による負担増、出社回帰に伴う需要の落ち着きを挙げ、生成AIの影響は限定的だと整理しています。「今のレイオフはAIがスケープゴートになっている」とする調査会社もあります。

 日本で人員削減が進みにくい背景に、整理解雇に厳しい要件が求められる法制度があるのは事実です。一方で、日本でも1万人を超える削減自体は発生しています。ゼロではないにもかかわらず、それがAIと結び付けて語られることはほとんどない──要するに日本の人員削減は業績不振や事業構造改革として報じられ、AIは理由として掲げられないのです。

 つまり日米の差は、AIの効果の差ではなく、AIを削減理由として掲げるインセンティブの差ではないか、という見方もできます。米国では株式市場が「AIによって筋肉質になった」という説明を評価します。“AIリストラ”は経営判断であると同時に、IR上のナラティブでもあります

 一方で日本では現状、AIリストラを評価する理由が弱く、そもそも簡単にはヒトを減らせないため、掲げる動機自体がない……というわけです。「日本はAI活用が遅れているからリストラが起きない」という単純な読みは成り立ちにくいとも考えられます。

レイオフしている企業も、ROI向上はできていない?

 また米Gartnerの調査では、自律型テクノロジーを導入した企業の約8割が人員削減を実施したものの、高いROIを達成している企業と成果がわずかまたはマイナスの企業とで、人員削減率にほとんど差がなかったと報告されています。

 同社のアナリストは「多くの経営幹部がROIを示すためにレイオフへ走るが、この考え方には誤りがある」と述べています。顧客サービス部門では、AIを理由に人員を削減した企業の約半数が27年までに類似業務で再雇用すると予測されてもいます。

 つまり先行しているように見える側でも、人員削減はROIに結び付いていないわけです。同社によれば、ROI向上に成功している企業の共通点は人を減らすことではなく、人がAIシステムを導き拡大するためのスキルとオペレーティングモデルへの投資にありました。

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この記事の著者

久松 剛
久松 剛

合同会社エンジニアリングマネージメント社長。博士(慶應SFC、IT)。IT研究者から、ベンチャー企業・上場企業3社でのITエンジニア・部長職を経て独立。大手からスタートアップに至るまで常時複数社でITエンジニア新卒・中途採用や育成、研修、評価給与制度作成、組織再構築、広報、AX・DX・FDEチーム組成などを幅広く支援。

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