経営「AIでラクして早く帰って」→社員「帰らない」 工数最大9割減のDeNAも悩むAI効率化の壁(3/3 ページ)

経営層は「ある程度乱暴なリーダーシップが重要」?

 経営層など上のレイヤーはどう振る舞うべきか。南場氏は、社員が空いた時間に始めたのは「やらなくても会社は壊れていなかった」仕事だとみる。ただ、それを1件1件やめさせようとしても、業務の中身は現場のほうが詳しく、議論では勝てない。

 だから個別に説得するのではなく、人を先に動かす。「人が浮いてきましたなんて、誰も自ら言ってこない。仕事を取りに行っちゃいますから。だからバサッと先に動かす」「ある程度乱暴なリーダーシップが重要」と南場氏は話す。

 金子氏も、経営が「空いた時間をこう使え」と指示するだけでは効きにくいとみている。「3000人いたら、3000人全員が正解を考えられるわけがない。経営層になるほど現場の解像度が下がり、現場が自負を持っている業務までやめろと指示することになってしまう。各論反対が起きるので、筋が良くない」

DeNAが試す「滑らかな異動」と評価の設計

 DeNAが試しているのは、「社員の行き先の定義」と「異動の設計」といえる。経営が筋がいい新規事業の領域を先に決め、「興味がある人は手を挙げてほしい。現業の調整は経営が責任を持つ」と公募する。

 手が上がりきらなければ「スポットで1カ月だけ手伝ってくれ」と頼む。「それならやりますよ、と結構手が挙がる」(金子氏)。そうやって手が挙がらない理由を1つずつ外す「滑らかな異動」を金子氏は目指す。

 最大の課題は「人をどれだけ、どう配置するか」で、3000人の半分を新規事業へという目標も「半分はエイヤ」だと認める。「悩みながら進めています」(金子氏)。評価については、DeNAはAI活用レベルを定義しているものの評価とは連動させず、「どれだけバリューを出しているか」を測っているという。

海外調査では還元志向も、ただし……

 企業側を広く見れば、時間を従業員に還元したとみなす会社は多い。PwC Japanの「生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較」では、生成AIを活用中または推進中の日本の回答者の50%が、効果の還元先に「従業員の雇用時間への還元」を挙げた(複数回答、米国65%)。「従業員への利益還元」は29%(同62%)、「特に検討していない」は14%(同1%)だった。

 業務時間が減った従業員が4人に1人だったパーソル調査とは母集団も設問も異なり、単純には比べられない。ただ、将来の還元予定を聞く選択肢には「成果ベースでの時短勤務奨励等」という括弧書きがある。つまりこの設問だけでは、勤怠上の労働時間がどれだけ減ったかまでは分からない。ここにはてな匿名ダイアリー投稿者の追記が重なる。「『AIを使え』と言うのは無料ですが、褒賞制度や評価制度を作るのは面倒だからじゃないか」。

時間を生むAIと、「やめる」を決める仕事

 「AIは時間を生むとは思っています。ただ、仕事を減らすわけではない。タスクは減らすけれど、仕事を減らしているわけではない」──田村氏はそう整理する。浮いた時間の行き先や、そこからどう変わっていくかを描くのは組織の仕事だという。リスキリングと配置転換のため、先に時間を振り分けることを、田村氏は「第3の賃上げ」と呼ぶ。

 話題になっていたはてな匿名ダイアリーの投稿者は「会社に差し出していた好奇心を自分の人生に戻す」と書いた。DeNAは「人を先に動かす」と「滑らかな異動」で、浮いた時間の行き先を経営が決める側に回った。AIで生まれた時間を、新しい仕事や配置転換ではなく労働時間の短縮や賃金に回す会社が出てくるかは、まだ分からない。

 ただ、田村氏が示す4条件もDeNAの異動も、入り口は同じところにある。AIを入れた後に、どの仕事をやめ、浮いた時間を何に使うかを会社が決めることだ。それをせずに「AIを使え」と言うだけでは、浮いた時間は次の仕事に吸収され、労働時間は変わらないままなのだろう。

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この記事の著者

斎藤健二
斎藤健二

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