全国に電子カルテ情報共有網 2030年度にも基盤構築 普及へ費用軽減がカギ

 政府は全国の医療機関が患者の電子カルテ情報をインターネット上で共有するシステム基盤を2030年度にも整備する。患者がかかりつけの病院以外でも治療や薬の処方をスムーズに受けられるよう医療体制を強化する。基盤構築に向けて、医療機関やシステム開発への財政支援を複数年度にわたり実施することを検討する。

 厚生労働省は中小規模の病院と診療所に対し、ネット上でカルテ情報を共有する「クラウドネイティブ型」電子カルテの導入費を支援する。国の標準仕様に基づく同型電子カルテのシステム販売が来年4月から始まる予定で、同省は27年度予算の概算要求に604億円を計上。上限を設けて導入費の半額の補助金を出すことなどを検討している。

 施設内にサーバを設置してシステムを構築する従来の「オンプレミス型」電子カルテからの更新を含め、クラウドネイティブ型の導入推進に向けて複数年度かけて支援する。

 中小規模病院と違って診療科目などが多く情報管理の仕組みが異なる大規模病院に対しては、クラウドネイティブ型のシステム開発を支援する。29年度にシステムの実証実験を行い、30年度からの導入を目指す。27年度概算要求では具体的な金額を示さない事項要求として予算を求めている。

 大規模病院の多くはすでにオンプレミス型を運用しており、30年度にもクラウドネイティブ型への移行を可能にする。大規模病院向けにも導入費の支援を実施するかは今後、判断する。

クラウドネイティブ型の導入が大規模病院でも進めば、全国の医療機関がカルテ情報の共有網でつながり、持病を持つ人が出先で体調が悪くなっても最寄りの医療機関で治療を迅速に受けられるようになる。政府は導入を後押しすることで、医療機関の業務効率化を後押しすると同時に、セキュリティー対策の向上にもつなげる考えだ。

セキュリティー強化の利点も

 政府が電子カルテ情報の共有基盤を構築するのは、医療機関どうしで情報共有が難しい従来システムが抱える問題を解消し、コストを抑えながらセキュリティを高めるためだ。ただ、医療機関からは電子カルテの費用負担が重すぎるとの声が上がっており、新システムの導入を進めるには負担軽減策が課題になりそうだ。

 大規模病院を中心に普及してきた「オンプレミス型」と呼ばれる従来の電子カルテシステムは、医療施設にサーバや機器を設置して管理・運用する。システムを提供するベンダーの技術や仕様に依存するため、他のベンダーのシステムとの情報共有が難しい。

 また、サーバや機器の販売価格だけでなく、維持管理やシステム更新の費用も高騰し、病院経営を圧迫する要因となっている。

中小病院で導入に2.5億円

 中国・四国9県における病院アンケートでは、電子カルテシステムの導入費は200~299床の病院で平均2億5000万円、500床以上で12億7000万円に上る。年間維持費もそれぞれ2300万円、1億7000万円と高額だ。

 山口県医師会会長を務める山口労災病院の加藤智栄特任院長は同アンケートに関し「電子カルテは大きな経営上の負担で、国の支援を求める声や、ベンダーを変えるときの費用が法外との意見が多かった」と指摘。「今の医療機関は経営危機にあり、導入は経営負担にしかなっていない」と窮状を訴える。

 政府は、インターネット上で情報共有する「クラウドネイティブ型」の導入によるコスト低減を期待する。診療所の場合、オンプレミス型の価格は300万円程度だが、クラウドネイティブ型なら50万~100万円程度になるとみている。クラウドネイティブ型は低コストでセキュリティー対策を強化できる点も導入促進のメリットだという。

 政府は中小規模病院と診療所のクラウドネイティブ型導入を後押しするが、大規模病院への対応は今後、検討する。限られた政府予算の中で医療機関の基幹システムとなる電子カルテ導入をどこまで支援するかは、政府・与党内でも意見が分かれそうだ。

 電子カルテ 医療機関で患者の診療記録や病歴、検査値、アレルギー情報、禁忌薬などを電子データ化したカルテ。普及率は令和5年時点で病院が65.6%、診療所が55.0%。400床以上の病院は93.7%と規模の大きい医療機関で導入が進んでいる。

(坂本一之)

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