まつもとあつしの「アニメノミライ」

アニメを支える外国人材に“逆風” 日本在住の声優・アニメーターが抱く「不安の正体」とは(2/3 ページ)

「ウエルカムじゃないんだ」――ベテランが抱く不安

 永住許可には、在留資格や状況に応じて幾つかのルートがある。

 いずれのルートも、永住許可そのものにかかる手数料は一律だ。25年4月にはこの永住許可の手数料が8000円から1万円に引き上げられたばかりだが、26年7月に出入国在留管理庁が公表した政令案では、26年10月から一気に20万円(現行の20倍)へと引き上げる方針が示されている(経済的な事情による減額規定も設けられる見通し)。

 また、永住許可とは別の手続きである在留資格の変更・在留期間更新についても、手数料の引き上げが予定されている。こちらは25年4月に4000円から一律6000円へと改定されたばかりだが、26年10月からは許可される在留期間に応じて1万円〜7万5000円の段階制に変わる見通しだ。8月には、永住許可の取得要件そのものを厳格化する改定案も法務省から示された。あわせて、24年の改正入管法では、税金や社会保険料を故意に滞納した場合や一定の重大犯罪を犯した場合に、永住許可そのものを取り消せる規定も新設されている(施行は27年4月の予定)。永住許可は取得後の在留期間更新審査という仕組みを持たないため、今後はこうした形で納付状況などが事後的に確認されることになる。

 今回の取材の出発点となった永住権を巡る話題について、ジェーニャさんは制度の実情をこう説明する。「永住権はいつでも取れると思って後回しにしていたのが、自分の甘さだった」と振り返る。日本人の夫と結婚しているジェーニャさんにとって、人ごとではない話だが、気に掛けているのは、取消事由そのものというより、手数料の引き上げと要件の厳格化が、これほど立て続けに、しかも急なペースで打ち出されていること自体だという。

ジェーニャさん

 日本国籍への帰化という選択肢もあるが、ジェーニャさんはロシア国籍を手放さない道を選んでいる。「この数年、コロナや国際情勢の変化で、世界がどうなるか分からない。子どもは日本人だけれど、いざというときに自分の立場がどうなるか分からない不安がある」。その「子ども」への思いがにじむ投稿を、ジェーニャさんはXにも残している。

「8歳の私と、今の8歳の娘」の投稿

 かつて8歳で家族とともにソ連からチェコスロバキアへ移り住んだ自分と、いま8歳になる娘。国境を越えて生きるという経験は、世代を超えて重なっている。それだけに、配偶者ビザに依存する立場の脆さは切実だ。「配偶者と死別すれば、いずれにせよ今の在留資格のままではいられない。子どもが未成年のうちは監護養育を理由に在留が認められやすいと聞くが、成人した後の自分の立場がどうなるのか、正直よく分からない」という。

 声優という専門的な職業自体に対応するビザ制度がほぼ存在しないことも、ジェーニャさんは指摘する。多くの外国人声優は、配偶者ビザやモデル事務所経由の在留資格に依存しているのが実情だという。「アニメで安定して稼げる声優はごく一部。それでも日本のアニメに関わりたいと願う人たちが、もっと安心して活動を続けられる仕組みがあってほしい」。

 その背景には、経済的な厳しさもある。「アニメというコンテンツ自体、出演するだけで大きく稼げる仕事ではない」とジェーニャさんは明かす。配信やイベント出演があってようやく成り立つ収入構造であり、「アニメは声優のためのプロモーションビデオではないはず。それなのに、配信で収益が入ってくるのは製作委員会や原作者であって、声優には還元されにくい」という業界構造への率直な指摘もあった。日本に住み続ける外国人が納める年金についても、途中から来日した場合は納付期間が短くなり、将来受け取れる額に影響が出る構造的な課題があるという。

 言葉に最も力がこもったのは、次の一言だった。「手数料の値上げや要件の厳格化が次々と進んでいくのを見ていると、外国人だからというだけで、否定されているように感じてしまう瞬間がしんどい。あなたたちはウエルカムじゃないんだ、と言われているような気がしてしまう」。

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この記事の著者

松本淳
松本淳

株式会社アースメディア 代表取締役CEO 1997年同志社大学法学部卒業後にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社、人材紹介事業の立ち上げメンバーとして事業企画を担当。 2003年HRテックのジョブダイレクトを創業、革新的なビジネスモデルが市場に評価され急成長する。2008年、上場準備を進める途上でリクルートによるM&A提案を受け事業を売却。 その後は国内およびアジア諸国にて国際NGOなど非営利組織の支援に携わる一方、国内外の多くの起業家、経営者のメンターも務める。現在は、リンクトインなどの各種ソーシャルメディアを基盤とする「ソーシャルリクルーティング」の可能性を追求し、再び人材業界に新しい価値をもたらすべく事業を推進中。 iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授/一般社団法人ソーシャルアントレプレナーズアソシエーション理事/日経COMEMO キーオピニオンリーダー

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