危機管理広報のプロが分析

渦中のGMO、熊谷代表の発信は“火に油”か? 「経営トップが自ら広報」の功罪(3/4 ページ)

社内で把握していたリスクへの対応こそ、重要な論点ではないか

 一方、今回のブログには、政府への要請とは別に、注目すべき記述があります。

 熊谷代表は、社内のホワイトハッカーから、今回のサービスに関するセキュリティ上の課題が事前に指摘されていたことを明らかにしています。そして、現場では対策を進めていたものの、サービスの可用性への影響や他の対処事項との優先順位を考慮した結果、対応の深度とスピードが十分ではなかったと説明しています。

 この情報開示は非常に重要です。なぜなら、今回の問題が単なるサイバー攻撃への技術的な対応だけではなく、社内で把握したリスクに対して、経営としてどのような優先順位をつけ、どこまで対応したかという問題にも関わっているからです。

 もし技術者からの指摘が組織として十分に生かされていなかったのであれば、技術面だけでなく、リスク管理や経営判断のあり方も検証すべき問題となります。こうした問題は、業種を問わず、企業経営におけるリスク管理の重要性を改めて考えさせるものです。

 現時点では、具体的に誰の判断に問題があったのか、どのような対応を取るべきだったのかまで断定することはできません。しかし、社内でリスクが認識されていたという事実は、今後の原因究明や再発防止策を考えるうえで、重要な検証対象となると思います。本来であれば、こうした経営上の課題こそ、社会に対して丁寧に説明していく必要があると考えています。

記者会見か、公式発表か 被害の深刻度に応じた発信方法の選択

 世間では、熊谷代表が記者会見を開くべきとの声も聞かれます。原則として、今回のような情報漏えいが発生したから必ず記者会見を開くべきだ、というわけではありません。被害の規模や内容、社会的な影響などを総合的に判断し、公式サイトでの情報開示を続けるという対応でも、十分に説明責任を果たせる場合はあります。実際、GMOは短期間に12報もの公式発表を重ねており、継続的な情報開示という点では評価できる対応を行っています。

 ただし今回の事案では、被害の深刻度についても考える必要があります。筆者は、9月末から相次ぐ情報漏えい事案の中でも、タイムズカーシェアについて、すでに経営トップによる記者会見を検討すべき段階に入っていると考えています。運転免許証などの本人確認書類画像データへのアクセスや外部送信の痕跡も確認されており、顧客への影響や被害の重大性を踏まえれば、文書による公式発表だけでは、被害者を含めた社会の疑念や不安に十分に応えられていない可能性があるからです。

 GMOについても、被害の内容こそ異なりますが、顧客の資産に関わる被害が発生し、攻撃者による情報の公開も確認されているという点で、タイムズカーシェアと共通する点があります、単にシステムが一時的に利用できなくなった、あるいは脆弱性が発見されたという事案とは、影響の大きさが異なります。筆者は、GMOについても、経営トップが直接説明する場を設ける必要性が高まっていると感じています。

 もちろん、会見を開くかどうかは、被害の全容や今後の状況も踏まえて判断すべきですし、会見を開かないこと自体が、直ちに不適切な対応になるわけではありません。しかし、今回のように顧客の資産に関わる被害が発生し、個人情報の公開も確認されている場合には、経営としての受け止めや、どのような責任を果たそうとしているのかを直接説明することが、社会の理解や納得につながり、早期収束にも寄与する可能性があると考えます。

 そのような局面で、熊谷代表は自身のブログを通じて、政府への能動的サイバー防御の要請や、日本のインターネットを守る必要性を強く訴えました。その問題意識自体は理解できますが、まずは自社の危機対応について、経営トップとして直接説明することを優先する選択肢もあったのではないでしょうか。

 記者会見では、当然ながら厳しい質問も出てくるでしょう。しかし、それは必ずしも企業にとってマイナスではありません。むしろ、経営トップが自らの問題意識や決意を直接伝える好機にもなります。

 なぜ自社のシステムを守れなかったのか。事前に指摘されていた課題にどう対応したのか。経営責任をどう考えているのか。こうした質問に正面から向き合い、自社の問題について説明したうえで、自身が描く思いを訴える。その方が、熊谷代表の問題意識や経営トップとしての覚悟が、より社会に伝わった可能性があります。

 ブログは自分が伝えたいことを、自分の言葉で整理して発信できる媒体です。それ自体が悪いわけではありませんが、今回のような深刻な危機の最中に、国家的な問題提起を長文のブログで展開する一方、記者からの質問に直接答える機会を設けないという姿勢は、受け手によっては、自分に都合のよい主張だけを発信しているようにも映りかねません。例えその意図がなかったとしても、結果として、自社の責任に関する説明よりも政府への要請が前面に出てしまい、問題の焦点が移ったように受け止められた可能性もあると思います。

 危機管理広報では、企業が伝えたいことを発信するだけでは十分ではありません。社会が何を知りたいのか、何に納得していないのかという視点も欠かせません。記者会見では、そうした企業と社会の認識のギャップが、メディアの質問を通じて明らかになり、認識のずれの解消につながることもあります。

 自社の問題に正面から向き合い、必要な説明責任を果たす。そのうえで、より大きな社会課題について問題提起をする。今回の熊谷代表のブログは、そうした説明の順序や発信方法について、改めて考えさせられるケーススタディーとなりました。

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