翌日の夕方、再び印刷屋さんに駆け込み、新たに約1.2メートル四方の「大QRコード」を用意した。こう言葉で説明するとしょぼい気がするが、実際に見るとこれでも結構大きい。昨日はこの4倍あったのか。
代々木公園で得た「たわむとダメらしい」という教訓をもとに、とりあえず会議室の壁に貼ってみる。この時こんなに固い壁に頼りたいと思っていたのは23区で自分たちくらいだろう。
ぴっちりと広げると、今度こそいけそうな気がする。ほんの十数時間前もそんな気分だった気もするが。
QRコードの幅が半分になったので距離も短くし、約15メートル先から読み取りスタート。手が震えないよう慎重にQRコードを捉えようと試みる。
しかし読みとれない。
いやいや、まだ遠いだけだ、きっと大丈夫……。
もう少しだけ前に。固唾を飲んで見守る一同。
あと10メートル……というところで「ピロン」と電子音が響く。読みとれた!
苦節2日間の末、ついにQRコードの扉が開いた。
喜びもつかのま、読みとったテキスト(小説の冒頭)をもとに著者と作品名を答えるというクイズが待っている。
正直、自分たちもこれがクイズだと忘れかけていたのだが、弊社新人の坊主氏(仮名、22歳)は無事に答えられるだろうか。
親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。小使に負ぶさって帰って来た時、おやじが大きな眼をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。
親類のものから西洋製のナイフを貰って奇麗な刃を日に翳して、友達に見せていたら、一人が光る事は光るが切れそうもないと云った。切れぬ事があるか、何でも切ってみせると受け合った。そんなら君の指を切ってみろと注文したから、何だ指ぐらいこの通りだと右の手の親指の甲をはすに切り込んだ。幸ナイフが小さいのと、親指の骨が堅かったので、今だに親指は手に付いている。しかし創痕は死ぬまで消えぬ。
「ううう、絶対読んだことある」「有名なやつですよね、なんだっけ……」。考え込む坊主氏。せっかくここまできたのだから、ここで外したらがっかりというものである。
「夏目漱石の……『坊っちゃん』!」
「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている」――夏目漱石の言葉が胸に刺さる。2メートル30センチ四方のQRコードは無鉄砲すぎて、紙代や印刷代の損をした。
落ち着いてから会議室でいろいろ試したところ、ほんの少しでもたわむと認識しないことが分かった。中央の部分を少しふくらませるだけでNGだった。風がある屋外ではサイズを小さめにしても難しそうである。
手や顔で隠れてしまう分にはある程度までは問題ない。QRコードの中央に人がしゃがんで、胸のあたりくらいまで映り込んでも認識できた。
それにしても、大きなQRコードを壁に貼るだけでサイバー空間っぽさがあふれ出てなかなかいい。ついスマートフォンのカメラを向けたくなるのだ。大きく印刷しなかったらこのことにも気付かなかっただろう。また1つ新しいことを知った。
QRコードはやっぱりすごい。何といったって光の速さでデータを送れるのだから。
光速で送ったクイズに対し、音速の声で答える。こう考えるとなんだかすごいことをやっている気がしてきた。
光の速さとまではいかないが、今回コラボした「JP1/Data Highway」もデータを高速転送できる機能を持つ。こちらはギガバイトクラスの大容量データも転送できるので、詳しくはこちらのページを見てほしい。
ちなみに今回印刷した巨大QRコードは坊主氏が家の壁紙にするそうである。
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