　米ラトガース大学と米テンプル大学に所属する研究者らが発表した論文「BioCase: Privacy Protection via Acoustic Sensing of Finger Touches on Smartphone Case Mini-Structures」は、裏面を指でタッチした際に個人認証を行うスマートフォンケースを提案した研究報告である。スマートフォンケースを握った際に触れる指によって変化する音をセンシングして個人認証を行う。

スマートフォンケースを指でタッチしている様子

スマートフォンのケースに触れたときに指が発する音響反応を利用して個人認証を行う

　スマートフォンを指でロック解除する際には、高画質のスキャンやカメラが必要だ。しかし、このような画像認識による認証方法では、盗まれるリスクが存在する。また、汚れや汗によって認証がうまくいかない場合もよくある。

　この研究では、これらの課題に着目し、スマートフォンケースを指でタッチすることでユーザーを認証する、新しいプライバシー保護システム「BioCase」を提案する。スマートフォンを片手で持っている際には、自然に人差し指や中指がケースの裏面に当たるため、非常に効率的な認証が可能だ。

　このシステムは、従来の画像認識とは異なり、音響センシングを使用して認識を行う。スマートフォンを握る際には、ユーザーの指が自然に裏面に触れる。このとき、構造伝搬音（固体伝搬音）の振動に影響が出る。指や構造の形状などの特性は、音響信号に共振周波数として現れ、伝搬速度、音響回折、信号減衰などに強く影響を与える。このような応答は、楽器でよく観察される。

このアプローチを楽器の周波数反応に例えた図。ギターのような弦楽器は、弦の振動で楽器の構造の特性に基づいて異なる周波数を生み出す。この手法も、スマートフォンケースのタッチする方法で異なる周波数を生み出す

　具体的には、内蔵スピーカーを使った高周波の音響チャレンジ信号から始まる。ユーザーが背面に指を触れることで、チャレンジの共振が変化し、ユニークな音響応答が生まれる。指が加える力によってスマートフォンケースの形状が変わり、周波数振動が変化するため、異なる共振周波数が楽器の鍵盤を押すように発生する。変化した周波数応答は内蔵マイクで測定できる。

　音響楽器のように、異なる形状のスマートフォンケースの内部構造は、指との相互作用によって異なる音響周波数応答を生成できる。ユーザーの指の形状も、組織構造、骨密度が異なるため、個々のユニークな応答が得られる。また使用する指や指の本数、タッチ位置などを変えることでさまざまな応答を作り出せる。

スマートフォンケースの内部構造を変えることで、異なる共振の変化を起こせる

スマートフォンケースの背面を異なる方法で指タッチしている様子

　この手法は、悪意を持って盗もうとする攻撃からも強力である。例えば、使用する指や本数、タッチ位置などを知らなければならないこと、指のタッチがスマートフォンの背面で行われるため、一般的なショルダーサーフィンから守られること、空中録音では十分ではなく、盗聴による攻撃が困難であるという利点がある。

　研究者らは、46人の参加者、複数のスマートフォンデバイス、スマートフォンケースを使用して広範な実験を行った。この実験では、ノイズや動き、ユーザーの指との相互作用など、実世界の要素を考慮した。その結果、94％以上の精度でユーザーを認識できることが分かった。

Source and Image Credits: Yilin Yang, Xin Li, Zhengkun Ye, Yan Wang, and Yingying Chen. 2023. BioCase: Privacy Protection via Acoustic Sensing of Finger Touches on Smartphone Case Mini-Structures. In Proceedings of the 21st Annual International Conference on Mobile Systems, Applications and Services（MobiSys ’23）. Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 397-409. https://doi.org/10.1145/3581791.3596841

イヤフォンの“音漏れ”を利用したハンドジェスチャー入力　筑波大と北海道大が開発
筑波大学と北海道大学に所属する研究者らは、イヤフォンの音漏れを利用して耳を覆いかぶすように手を添えてハンドジェスチャー入力を行う手法を提案した研究報告を発表した。
ネット接続していないPCをスマホでハッキング　壁越しでも2m離れた場所から無線で攻撃
イスラエルのBen-Gurion University of the Negevに所属する研究者は、ネットに接続していないコンピュータ（エアギャップPC）を離れた場所から無線でハッキングするサイバー攻撃を提案した研究報告を発表した。
歯ぎしりの音をイヤフォンで拾い個人認証　米国チーム「ToothSonic」開発
米フロリダ州立大学と米ラトガース大学の研究チームは、ユーザーが歯のジェスチャーを行う際に発生する歯型による音波効果を利用したイヤフォンベースの認証システムを開発した。
PINコードをタップする際の“振動”で個人認証を強化　のぞき見などに対策
韓国のChung-Ang Universityによる研究チームは、PIN（Personal Identification Number）コードやパスコードなどの個人認証を強化する、スマートフォン向け多要素ユーザー認証システムを開発した。
呼気で個人認証、原理実証に成功　精度は98％
人の呼気から得られる科学情報を個人認証に活用する技術の原理実証に成功したと東京大学大学院などの研究グループが発表した。なりすまし対策にも有効だという。