Innovative Tech
「生理周期」と「月の満ち欠け」の同期が“2010年で乱れた”ワケ 原因はスマホ? Science系列誌で発表
Innovative Tech:
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
ドイツのユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルクなどに所属する研究者らがScience Advances誌で発表した論文「Synchronization of women’s menstruation with the Moon has decreased but remains detectable when gravitational pull is strong」は、女性の月経周期と月の満ち欠けの関係を調査した研究報告だ。
生殖の成功率を高めるため、多くの種では生殖行動を月の周期の特定の段階に同期させていることが知られている。今回研究チームは、176人の女性(開始平均年齢は25.9歳)から収集した最長37年にわたる月経記録1万1565回分を分析し、月経周期と月の周期の関係を調べた。
研究によると、2010年以前に記録された月経周期は、満月や新月のタイミングと統計的に有意な同期を示していた。女性たちの月経開始日は、満月または新月付近に集中する傾向があった。これは月の朔望周期(満月から次の満月までの約29.5日)と、平均的な月経周期の長さが近いことに起因すると考えられる。
しかし2010年以降、この同期現象は著しく弱まった。研究チームは、この時期がちょうどLED照明の普及とスマートフォンの爆発的な普及時期と重なることに着目。夜間の人工光への曝露が増加したことで、月光による自然な明暗サイクルが感知されにくくなり、月経周期と月の同期が乱されたと推測される。実際、人工光は月経周期を短縮させることが知られており、これが同期を妨げる一因となっている可能性がある。
(関連記事:夜に光を多く浴びる人ほど、精神疾患リスク増──光を浴びる時間とメンタルの関係 豪州チームが23年に発表)
2010年以降でも毎年1月には月経と月の同期が維持されていることが判明した。1月は地球が太陽に最も近づく近日点の時期に当たり、太陽と月の重力が相互に強化される。研究チームはGoogle Trendsのデータも分析し、北半球・南半球の複数の国で1月に「生理痛」の検索頻度が増加することを確認した。これは重力の影響が月経に何らかの作用を及ぼしている可能性を示唆している。
月の影響は光だけでなく、重力によるものも含まれることが今回の研究で示された。月は朔望周期のほかに、地球との距離が変化する近地点・遠地点周期(約27.55日)、月の赤緯が変化する回帰月(約27.32日)という異なる周期を持っている。
研究では、これら3つの周期全てに対して月経周期が一時的に同期することを確認した。特に、約18.6年ごとに起こる月の軌道傾斜角の変化の極小期には、満月への同期が特に強くなることも判明した。
Source and Image Credits: Charlotte Helfrich-Forster et al. ,Synchronization of women’s menstruation with the Moon has decreased but remains detectable when gravitational pull is strong.Sci. Adv.11,eadw4096(2025).DOI:10.1126/sciadv.adw4096
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
「Androidのマイナンバーカード」提供へ 20日から 物理カードなしでも本人確認など可能に
-
2
個人向けGeminiのモデル選択が厳格化 無料ユーザーが使えるのは「Flash-Lite」のみに
-
3
睡眠中に「ピンクノイズ」を聞くと“脳内ゴミ”の洗い流しが強まる? 米MITが人間で実験 Science系列誌で発表
-
4
「OpenAIの文化は壊れている」──安全性報告書を統括した従業員が退社し、寄稿
-
5
タイムズカー漏えいで集団訴訟の動き、登録3000人弱 呼び掛けた弁護士に聞いた──「謝罪で済む案件ではない」
-
6
免許証の悪用防止で申し込み集中 JICCがアプリ受付を一時休止 タイムズカー漏えいの影響か
-
7
「アバハウス」全顧客の情報漏えいか 会員・受注DBに不正アクセス 「不審な返金メール届いた」報告で判明
-
8
第一生命に不正アクセス 従業員情報12万人分漏えいか 退職者も対象
-
9
再び浮上した「クレカ表現規制問題」 クリスタやpixiv FANBOXの騒動からマンガ家が感じた不安と焦り
-
10
靴のムーンスター、顧客情報漏えいの可能性 氏名や住所、注文情報など
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR