インテルの携帯デバイス市場進出に最高の武器──それがAtom
ISSCCでその概要が紹介された「Silverthorne」は、3月のCeBITで正式名称「Atom」が公表された。Atomでインテルは携帯デバイス市場に橋頭堡を築けるのか。
上質のインターネットはAtomで可能に
インテルは2008年3月のCeBITで超小型端末向けのCPU「Atom」と、Atomを基幹とするプラットフォーム「Centrino Atom」を発表した。Atomはこれまで開発コード名「Silverthone」と呼ばれていたもので、従来のモバイル向けCPUよりも消費電力を大幅に軽減し、主にUMPCやMID(モバイルインターネットデバイス)での利用が想定されている。
Atomという名称が正式に発表されたものの、そのスペックや対応するチップセットの詳細はまだ明らかにされていない。MIDも2008年のInternational CESで参考出品されているものの、こちらも、バッテリー駆動時間などの製品詳細は明らかになっていない。ただ、Atomの名がCeBITで発表されたことを考えると、その全容が明らかになる日も近いと見るのが妥当だろう。
サーバからノートPCまで幅広いCPU市場を押さえているインテルにとって、次のフロンティアは携帯デバイスの市場だ。従来、XScaleというARMベースのプロセッサをインテルはラインアップに持っていたが、2006年にその事業を売却してしまった。しかし、いま考えると「携帯デバイス向けの分野もIAでカバーできる」という判断があったのかもしれない。
UMPCやMIDといった携帯デバイスは、性能と消費電力のトレードオフが重要になるが、それだけで市場を獲得できるものではない。そこでインテルが取った戦略は、デバイスメーカーなどのクライアントにも分かりやすい「IAによるメリット」を訴求することだった。
優れたアクセス環境は「IA互換」で可能になる
MIDを重要なターゲットと認識しているインテルは、Silverthone世代のAtomの次に、「Moorestown」(開発コード名)を予定している。Moorestownは、Silverthoneから設計を大きく変更したCPUになるとみられ、フットプリントと消費電力はSilverthorneから大幅に削減されるといわれている。デュアルコアではないが、ハイパースレッディングによる2タスク同時実行に加えて、コアマイクロアーキテクチャで採用されたSSE3/SSSE3の導入するなどの従来型PC用バイナリとの高い互換性が、超小型端末市場へ切り込む強力な武器になるとインテルは考えているようだ。
いうまでもなく、この市場にはARMという強力なライバルがすでに存在している。このARMに打ち勝つAtomの強みが「従来型PCとのバイナリ互換」になるわけだ。ARMマシンのインターネット閲覧環境において、現在主流となっているリッチコンテンツのWebページのすべてが完全に利用できるわけでない。例えば、前モデルのMyloではYouTube動画が見れなかったり、新モデルのMyloでもH.264圧縮動画を採用する「ニコニコ動画」は見ることができなかったりという事例がこちらの記事でも紹介されている。
一方、Centrino Atomならば、Flash 9のバイナリがそのまま利用できる。インテルの調査では、PCで使われている一般的なWebページをIAベースのLinux MIDで閲覧した場合とARMベースのインターネット端末で閲覧した場合とで比較したテストで、IAベースのLinux MIDでエラーが出る回数はARMベースの端末より少ないという結果が出ているという。このことから、インテルは「インターネット閲覧環境に優れた携帯デバイスを作るならIAベースで」とアピールするのだ。
一部のミニノートPCの採用にとどまったMcCASLINだが(とはいえ、そのインパクトは採用機種の数以上に大きかった)、SilverthorneでMIDという新しい市場に切り込み、Moorestownではさらに小型のスマートフォンや携帯ゲームまでをターゲットに見据えている。携帯デバイス市場に挑み、いったんは計画を見直してきたインテルは、Atomという強力な武器を手にして今度こそ苦手とする市場で成功を収めることができるだろうか。それは、この“半年間”で決まるはずだ。2007年後半から携帯デバイスへの強い意欲を示しているインテルが、これから具体的にどのような発表を行い、どのようなAtom搭載製品が登場するのか、非常に興味深いところだ。
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