進化しすぎたXeonの憂うつ:元麻布春男のWatchTower(3/3 ページ)
インテルとAMDが2010年3月の末に相次いで発表したサーバ向けCPUの新モデル。今回はXeonの新モデルからインテルのジレンマを解説する。
Xeon 7500が1世代前のコアを採用する理由
Xeon 7500番台のもう1つの特徴は、高い信頼性や可用性を実現するためのRAS機能だ。SMIやQPIといった主要なインタフェース、さらには、内蔵するキャッシュメモリには、ECCやCRCによるデータ保護が行われている。Xeon 7500番台は、最大で24Mバイトという大容量の3次キャッシュメモリを備えるが、こうしたデータ保護なしには安心して利用できない。
その上で、万が一障害が発生した場合に備えて、CPUやメモリモジュールのホットプラグによる交換をサポートする。さらに、マシン・チェック・アーキテクチャ(MCA)により、回復不可能な障害が発生した場合は障害部分を切り分けた上で、OSの再起動が可能だ。CPUに障害が発生した場合、4ソケット構成であれば3ソケットで運用が可能なほか、8ソケット構成時は6ソケットによる縮退運用が可能となっている。
このXeon 7500番台には、上述のSMBに加えてIntel 7500チップセットを組み合わせる。Intel 7500チップセットは、2010年2月に発表されたItanium 9300番台(開発コード名Tukwila)と共通だ。もちろん、ソケットやファームウェア(BIOS)が異なるから、差し替えることはできない。しかし、CPUの外部インタフェースが、マイクロアーキテクチャに依存したFSBから、システムレベルのインタフェースであるQPIに変わることで、こうしたプラットフォームの共通化が可能となった。
Intel 7500チップセットの主要な役割は、QPIをI/OインタフェースであるPCI Expressに変換するブリッジだ。全部で72レーンのPCI Express Gen.2と、4レーンのPCI Express Gen.1に加えて、ICH10が接続できる。また、VT-dに対応するほか、セキュアなシステム起動を保証するためTPMのサポートも加わっている。
Nehalem-EXに基づく製品は、2/4/8ソケットに対応するXeon 7500番台と、2ソケット専用のXeon 6500番台の計11モデルが用意される。2ソケット専用モデルは、HPC向けだ。Xeon 5600番台同様、各モデルでは、動作クロックやコア数(4~8コア)の違いに加えて、TDP、Turbo Boost Technology機能の有無、Hyper-Threading Technology機能の有無、さらには、QPIのデータレートなど、細かな機能差が設けられている。
出来過ぎるXeonがItaniumを駆逐する?
Xeon 7500番台は、高性能に加え、高い拡張性、高度なRAS機能を備えた、ハイエンドIAサーバ向けCPUとなっている。しかし、このことは、自社製品に少なからぬ影響を与える。
インテルは、ミッションクリティカルな基幹業務用のCPUとして、高い信頼性とスケーラビリティを備えるItaniumを推してきた。しかし、最新のItanium 9300番台は、リリースが2年余り遅れたこともあって、性能面ではXeonを下回ってしまった。加えて、Xeon 7500番台が標準で8ソケットに対応するなど拡張性を高め、RAS機能を強化したことも、Itaniumの優位性を大きく揺るがしている。
もちろん、長期サポートが不可欠なミッションクリティカル用途に売り込んだ以上、インテルが一方的にItaniumを止めることはしないだろうし、できないだろう。Xeon 7500番台のRAS機能は、x86系CPUとしては最高水準にあるものの、まだItaniumに及ばない部分もある。共同開発パートナーで今もハイエンドサーバにItaniumを採用するヒューレット・パッカードの意向も無視できない。
以上のような事情から、Itaniumがすぐに消えるということはないものの、今後、インテルの重心はXeonに移っていくだろう。それを踏まえたチップセットの共通化なのではないか、とも考えられる。さらに、こうした意向を裏付けるかのような動きが、パートナーの間にも見られる。
東京証券取引所向けのミッションクリティカルシステムである「arrowhead」をItaniumベースの「PRIMEQUEST」で構築した富士通は、その後継機である「PRIMEQUEST 1000」シリーズにItanium 9300番台ではなくXeon 7500番台を選んだ。純粋な性能という点で、8ソケット構成の「PRIMEQUEST 1800E」は、標準的なベンチマークテストにおいて、8ソケットサーバの世界記録を樹立している。ItaniumベースのPRIMEQUESTでは富士通が自分でチップセットを開発する必要があったが、PRIMEQUEST 1000シリーズではインテルの標準チップセットを利用するため、価格を抑えることもできた。その結果、PRIMEQUEST 1000シリーズの価格性能比は、Itaniumベースの「PRIMEQUEST 580A」に比べて3~6倍に達するという。
主要なOSベンダーであるマイクロソフトは、Itaniumをサポートしたソフトウェアの新規開発を、Windows Server 2008 R2、SQL Server 2008 R2(データベース)、Visual Studio 2010(開発ツール)で打ち切る方針を明らかにした。同社のサポートポリシーに従って、Itanium向けのWindows Server 2008 R2のサポートは2018年7月10日まで続けられる(延長サポートフェーズ)が、「メインフレーム級」のコンピュータにとって、8年のサポート期間は短い。Xeonへのシフトは、避けられないものとして、今後ますます進むだろう。
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