プレゼンテーションで振り返る“Apple=ジョブズ”:スティーブ・ジョブスは“役者”でもあった(3/3 ページ)
その場にいるすべてのアップルファンを心酔させるジョブズ氏の講演は、アップル文化の源といってもいい。ここでは“役者"としてのジョブズ氏の姿をまとめてみた。
“ポスト・ジョブズ”の時代はどこに進む
ジョブズ氏の影響力の大きさは、いまさら説明すまでもないことだが、ジョブズ氏のほかにもアップルには優秀なスタッフがいる。特に、いま現役のモデルで採用されたスタイリッシュで使いやすいデザインを作り出したジョナサン・アイブ氏と、ジョブズ氏を支える新CEOのティム・クック氏の存在は大きい。彼らによって、ジョブズ氏が第一線を退いてもアップルの魅力が急に減少するというわけではない。
クック氏は、COOとしてジョブズ氏が病気治療中の経営指揮を一手に担っていた人物だが、その経歴の中には、ワールドワイドのセールス担当責任者であったときもある。エンジニアやクリエイターというより、むしろセールスやマーケティングなどアップルでは裏方となる分野で活躍していた人物といえる。
その実力が発揮されたのがアップルのサプライチェーン構築で、旧製品から新製品へと一気に切り替えを可能にする在庫管理、そして、製造状態を事細かに管理する仕組みの構築はクック氏の采配によるところが大きい。在庫管理はメーカー共通の悩みだが、これを業界で最も優れたシステムに仕上げ、コストや無駄を省いた功績は非常に大きい。アップルは、製品やサービスの魅力もさることながら、こうした強力な流通販売網を敷いている点も企業としての強みとなっている。
優秀なスタッフがそろっているアップルは、ジョブズが経営の第一線から退いたからといって、企業としての“仕組み”に死角はほとんどないといえる。競合する企業が、この期に乗じて反撃しても、簡単には切り崩せないだろう。
今回のジョブズ氏退任の第一報が出たとき、筆者がチェックしている米国メディアの多くは、突然の話題に驚く一方で、退任そのものには冷静に反応している。同氏の病気療養はすでに1年以上が経過しており、実務そのものはほかのスタッフに移行しているからだ。San Jose Mercury Newsの同日付け報道によれば、複数のアナリストらの指摘で、短期的にはアップルにとってマイナス材料にはならないとみられている。多くのアナリストは、この影響について判断するには、もう少し経過を見る必要があるとの意見で一致している。
アップルの株価は、もともと歴史的水準で推移していたこともあって、ジョブズ氏退任のニュースが出た直後の24日時間外取引ではマイナス5%も急落する事態になっている。これは過剰反応だと思われるが、実際にアナリストらはアップル株を買い推奨判断から動かしておらず、短期的な判断は早計との考えのようだ。
危険なのは、安定した時期が長く続くことで、競合たちが力をつけ、かつ、アップルが競合たちの実力を過小評価したときだ。ジョブズが強力な決定者として存在しせず、強力なリーダーシップやディレクションが不在だった場合、アップルが現在のポジションを維持できるだろうか。
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