スティーブ・ジョブズ氏の“航跡”を振り返る:ついにその日が来てしまった
スティーブ・ジョブズ氏が、2011年10月5日(現地時間)に亡くなった。同氏が21歳でAppleを創業してからの波乱に満ちた航海をもう一度たどってみたい。
作って、出て行き、戻って、また作った
スティーブ・ジョブズ氏がAppleのCEOを辞任するとき、ボードメンバーならびに同社関係者に宛てた手紙で「わたしがCEOとしての責務を負えなくなったとき、皆さんにまず最初にお伝えすると約束していたが、ついにその日が来てしまった」と告げている。
ジョブズ氏が30年以上にわたってAppleと歩んできた時間は2011年10月5日で止まってしまったが、その“時間”は決して平穏なものではなかった。
同氏のシリコンバレー起業家としての歴史は、友人のスティーブ・ウォズニアック氏とともに開発した初の完成品コンピュータ「Apple I」から始まる。このビジネスで成功した彼らは、1977年にApple Computerを創業する。
その後、Apple II、Macintoshとヒット商品をリリースして経営が軌道に乗ったとき、ジョブズ氏がApple CEOとしてスカウトしたジョン・スカリー氏との関係が悪化し、ジョブズ氏は同社におけるすべての権限を奪われた。
ジョブズ氏はこの1985年にAppleを離れ、NeXT Computerを設立して新しいワークステーション製品開発に乗り出す。NeXTは商業的に失敗したが、その先進性はAppleを含む後のさまざまなプロジェクトに生かされており、技術面では一定以上の成果があったと考えられている。
その後大きな転機となったのは、1996年のAppleによるNeXT買収だ。当時のAppleは、次期主力OSの開発に難航しており、外部から技術を導入して再構築していこうと考えていた。NeXTはすでにハードウェア開発からは撤退しており、ライセンス販売していたOSの“NeXTSTEP”が次期Mac OSとして採用されたのだ。これが、後の「Mac OS X」になったが、この買収を機に、ジョブズ氏は再びAppleへと返り咲くことになる。
当時のAppleはキャッシュが極端に不足しており、危機的な状況にあった。ジョブズ氏は立て直し作業として、まずは事業整理を行いつつ、協力パートナーとの関係を見直すことにした。そして当時CEOだったギル・アメリオ氏を退任させ、自らは“暫定”CEOとして1997年から経営の陣頭指揮を執ることになった。
この後に起きたAppleの奇跡的な復活は多くの人が知るところだろう。「もうからない」などといわれていた携帯音楽プレーヤー市場に「iPod」と「iTunes」で参入し、現在のAppleの礎を築いた。
一方で、主力事業だったMacではエントリーモデルの「iMac」が成功して、安定経営に必要なキャッシュを稼ぎ出した。技術的に停滞していたPowerPCに見切りをつけ、Intelのx86系CPUへの移行も実施した。これは、従来のユーザーから反発もあったものの、これが結果として「MacBook Air」などにつながる製品ラインアップの実現に結びついている。
そしてAppleの事業に大きな転換をもたらす「iPhone」に「iPad」といった新基軸の製品も登場した。当初、iPhoneの可能性についてはかなり疑問視されていたが、現在では最もポピュラーなスマートフォンの1つとなっている。
Appleは、iPhoneの投入を機に社名を変更して「Computer」の名称を外し、PCだけに依存しない統合的なメーカーになっている。そして、“Apple”という名前のコンピュータで始まったPC時代は、それを誕生させたジョブズ氏によって、「ポストPC」時代へと導かれたといえるだろう。
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