ついに日本で発売される「Surface RT」の可能性:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
2013年3月15日に日本で発売されるMicrosoft純正のWindowsタブレット「Surface RT」。米国モデルを発売直後から使い続けている筆者が、改めてSurface RTの実体に迫る。
PC的性能を求めない新しい使い方の提案
例えば、大量のメールを一気にダウンロードする、といった際には動作が重くなる。通常、こうしたタブレットは直近のメールしか読み込まず、一度メール一覧を更新した後、バックグラウンドで少しずつメールを読み込んでいくが、Windows RTが標準装備するメールは、PC的に一気にメールを読み込もうとしてしまうようだ(オプションを設定して、同期するメール数に制限をかければ、大幅に改善はする)。また、カレンダーアプリのビュー切り替えの際も、カレンダーに登録しているアイテムが多い場合、表示が遅れるといったことがあった。
もっとも、これらはアプリの処理が工夫され、よりハードウェア性能に見合ったものに改良されていけば、大きな問題とはならないだろう。現時点では完全に解消はされていないものの、この数カ月でもかなり標準添付のアプリの性能は上がってきている。
一般にスマートフォンやタブレットの情報ツールは、すべてのデータではなく、直近の必要な情報だけを端末内で処理し、残りはクラウドに置いておくというスタイルのアプリが多いが、Windows 8搭載PCと同じ標準アプリを備えるWindows RTは、通常のPCと同じだけの情報を処理するようデフォルトで設定されているため、やや印象面では不利といえるかもしれない。
しかし、そもそもWindows RTを搭載するコンピュータは、従来のPC的な高性能・大容量を求めない使い方を基本に設計されている。すなわち、iPadを代表格とする一般的なタブレットの使い方だ。
そうした意味において、Surface RTは十分な性能と画面解像度に見合うグラフィック性能を備えている。
もちろん、Windows RTと言えどもMicrosoftがWindows 8で提供するさまざまな機能(セキュリティ機能やネットワーク機能)を備えているので、企業ネットワークとの親和性も高く、特殊なドライバやプロトコルが必要でないならば、Windowsを置き換えられるプラットフォームとしての能力は持っている。プリインストールされる「Office 2013 RT」(Word、PowerPoint、Excel、OneNoteを含み商用利用が可能)と組み合わせ、ある程度は“お仕事パソコン”としても使えるだろう(Windows Active Directoryや仮想化、Outlookには非対応だが)。
しかし、Windows RTにはIntelプロセッサとの互換機能がないため、従来のWindows用アプリ(デスクトップアプリ)は動かすことができない。Windows 8とアプリは共有できるものの、それもWindowsストアから入手できるアプリ(Windowsストアアプリという)に限られる。つまり、これまで使ってきたWindows PCの代わりとして使うものではない。
「PCのタブレット化」ではなく、「タブレットのスーパーセット」
こうした点について、MicrosoftはSurface RTを「タブレットのスーパーセット」なのだと話している。
Windowsストアアプリの充実に関しては、時間をかけなければ追いつくことはできない。現時点で十分とは言いがたいことも、Microsoftは承知している(最低限はそろっているとは思うが)。
しかし、Surface RTを実際に使ってみると、確かにそれはタブレットなのである。サスペンド/レジュームをほとんどタイムラグなしに実行でき、サスペンド中にも大きな電力の消費なくメールなどを受け取り、長時間のバッテリー駆動にも対応する。従来のPCで不便だった部分が、Surface RTでは解消されている(というよりも、一般的なタブレット同等になったと言うのが正しいだろうか)。
例えば省電力性能。31.5ワットアワーのバッテリーを背負うSurfaceは10.6型ワイド液晶ディスプレイで約675グラムと、9.7型スクエア液晶ディスプレイの「iPad」(第4世代のWi-Fiモデルで約652グラム)よりも軽量に仕上がっている。そのうえで、バッテリー駆動時間は最大約8時間を実現した。実際の使用感覚としても、iPadなどのタブレットと同等だと思う。
これだけならば、アプリがそろっているiPadのほうが便利だ。実際、アプリだけを使うなら、そのほうが幸せになれるだろう。しかし、軽量かつ省電力な道具、文房具としてのPCを考えるとき、iPadよりも制限が少なく、外部ストレージ(microSDカードスロットがあり、USB経由でも接続可能)が利用でき、PCに近い使い勝手ができる製品としての価値はある。
従来のPCユーザー的な観点から言うと、Windows RTには制限がとても多く、いわゆる“Windows PC”らしい使い方を想定していると、少々面食らうだろう。Windows RTを使いこなすには、まず「これはWindows“PCではない”」ことを受け入れ、他のタブレットにはできない使い方もできる、PCに近いタブレットと考えを切り替えることから始めることを勧める。
そこの部分を納得できるなら、Surface RTはなかなかよい仕上がりの製品である。ただし、彼らにとっても予想外だったのは、Intelの新型Atomプロセッサ「Atom Z2760」(開発コード名:Clover Trail)の性能がよかったことだろう。
Clover TrailはWindows 8が動作するため、従来のWindows用アプリも当然ながら動作する。そのうえ、ARMプロセッサと同レベルの省電力で薄型軽量なタブレットを開発できてしまう。
また、今後の懸念としては、サードパーティーのアプリがWindows 8(多くはIntel Coreアーキテクチャで高性能)に合わせて設計される可能性があることだろう。現時点において、圧倒的にマイノリティのWindows RTの性能に、どこまで合わせて開発してくれるかは、まだまだ未知数だ。
結論を言うならば、Windows RTとSurface RTが示す可能性は大きい。
既存のデスクトップアプリとの互換性はないものの、Windowsのほぼフル機能を利用可能なコンピュータが、タブレットと同じぐらいの気軽さで使える。Microsoftも、自身がイメージする未来のパーソナルコンピューティングを、ハードウェアとソフトウェア、それに連動するサービスまでを含めて設計、演出して消費者に届けることで、新たな製品分野を確立させたいと必死だ。
現時点では、まだ道半ばの印象が強いものの、Windowsが仕事で必須という人にとって、これ以上に手軽なコンピュータが存在しないことも確かである。今後の進化の中で、徐々に不満が解消されていくことを望みたい。
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