新VAIOは“次世代プロセッサ搭載PCの完成形”を目指す――関取社長ロングインタビュー:本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/4 ページ)
7月1日に発足した「VAIO株式会社」。ソニーという巨大企業から小さなPCメーカーのブランドとなったVAIOは、どこへ向かおうとしているのか? 関取高行社長の本音に迫る。
よりよい物づくりをするための組織であるために
関取氏の言うこと、意気込みは痛いほど分かるが、一方で優秀な商品企画、エンジニア、生産技術などに囲まれながら、業績が急降下した事実もある。その背景について、筆者の視点で簡単に解説を加えておきたい。
ソニーはリーマンショック後に新興国でのシェアを重視し始めていた。そうした判断にはさまざまな要素が絡んでいるが、もとは高付加価値商品として売ってきたVAIOで、新興国でのシェアを求めため、猛烈なコストダウンとともに、国や地域に合わせたカスタマイズが求められるようになった。
各地販売会社から「こうじゃなければ売れない」「売るためには~であることが必要だ」など、現地からの声を拾い上げることに商品企画やエンジニアの時間を取られ、商品の魅力を深く掘り下げるための時間が失われていた。
近年のVAIOの不調と、上記のような開発にまつわる事情はかなり密接に関連していると個人的には思っている。販売する各地域ごとのニーズに応じるため、同じシャシーで多様なバリエーションモデルが生まれ、設計・開発リソースをユニークさや品質に割り当てる余裕がなくなり、「魅力ある製品を作る組織」としての力を下げてしまっていた。
そうしたことを念頭に、関取氏の専門分野でもある「よりよい物づくりをするための組織運営」について、自身の考えを伺ってみた。その答えを最後に記して、本記事を終えることにしたい。
関取氏 顧客から見える「よりよい商品」とは、商品を企画、開発、生産、流通させている組織全体の流れが生み出す結晶、結果だと思います。「素晴らしい技術力」や「うっとりするような美しいデザイン」、あるいは「ブランドとしての格好よさ」など、個々の要素が備わっているだけでは、本当に「よりよい商品」にはならないと思います。
例えば、メーカーのトップが率先して商品を理解し、商品戦略を考えた方がよいという意見もありますが、その結果、商品がよくなって売れてもうかるのでしょうか。あるいは商品企画に優秀な人間がいて、斬新なアイデアを次々出せるから、その結果、たくさん売れてもうかるでしょうか。個々の要素だけではダメなのです。
「よりよい商品」とは、何か固有の要素だけで生まれるのではなく、いろいろな要素がつながり、一連のスムーズな流れが生まれることで、結果、素晴らしい商品として結実するのではないでしょうか。
無数の顧客や販売現場の中に、よりよい商品を作るためのアイデアがあるものです。それをどう掘り起こし、考え抜くかという要素が1つ。そして、そうした新しいアイデアの価値や目的について、開発エンジニアとも密接にコミュニケーションし、「無謀なアイデアに振り回されて」やるのではなく、納得感を持ってともに新たな価値をタイムリーに生み出していける組織でなければなりません。
さらに、そうして生まれる全力投球の製品の魅力を、余すことなく世の中に伝え、無駄なく生産、流通させ、アフターサービスもきっちりと行わねばならないでしょう。そうした1つの商品をめぐる全体の流れをスムーズなものにし、「よりよい商品」が生まれやすい環境を作ることが私の務めだと思います。
例えば、自動車業界を見ると、自動車メーカーとしては小規模なスバルやマツダが、そのブランド力、商品力を大きく上げています。これも、よい商品を生むための組織、全体の流れを取り戻した結果なのではないかな? と思いますし、VAIO株式会社はそうした会社であるべきだと考え、ともに船出した社員達とも価値を共有しています。
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