「iPad Pro」を林信行が読み解く――なぜPenではなく“Pencil”なのか?:Apple新製品のすべて(2/2 ページ)
iPad mini 4を2つ並べた画面サイズの「iPad Pro」は、「Apple Pencil」によって精密な手描きを可能にするなど、これまでのiPadシリーズからさらに使い方の幅を広げるまったく新しいiPadだ。
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iPad Proの見どころ――Pencilの意味
今回、モノとしての見た目で圧倒的な存在感を放っていたiPad Proだが、こちらも他のアップル製品と同様に、細部にまで魅力が漂う製品に仕上がっている。
筆者自身も含め、ハンズオン会場で実物を触っていた人の多くが、まず第一印象で「大きい」と驚かされ、次に手に持って「軽い」と驚かされる。
面白いのは、手に持って「軽い」と言っているときには「大きい」という印象は消え、違和感なく自然とそのサイズに慣れられること。しかし、そこで再び画面分割のアプリを操作していると「あ、やっぱり画面大きいんだ」と改めて驚かされる。
この“主張せず馴染む感じ”こそが、iPadが一次産業から医療、教育とあらゆる文化に浸透していった重要な理由の1つといえる。iPad Proはそのコンセプトを崩していない。
iPad Proで次に気になるのはキーボードだろう。これまでiPad用の外付けキーボードといえばBluetooth接続のものが主流だったが、初心者には難しいペアリングなどの作業があったのに加えて、iPad本体のバッテリー残量と併せてキーボードのバッテリー残量も気にする必要があった。
これに対してSmart Keyboardは、iPad Proに新たに追加されたSmart Connectorから給電するため、バッテリー不要で利用できる。キーの数は64で、キーボードとしての厚みはわずか4ミリながら、キーを押したときに、しっかりとしたクリック感があり、安心してタッチタイピングできる。
Smart Keyboardのキーボード部分は、iPad Proの画面サイズに比べて2/3ほどの面積。Smart Keyboardは、そのキーボード部分の先に三角形を作るように折ってスタンドとして使えるカバー部分(iPad Proの画面の大きさ)がひと続きになっている。
新設のSmart Connectorは、iPad本体にマグネットで装着できる周辺機器用の新設ポートだ。電源供給が可能で、少量の通信で済む機器のためのもの。アップルのSmart Keyboard以外に他社製品用にも解放されており、実際、iPad Proの発売にあわせて数社が周辺機器を発表する予定だという。もしかしたら、今後、iPad Pro用の音楽キーボードやドラムパッドも出てくるかもしれない。
もう1つの気になる周辺機器がApple Pencilだ。最初は一体、なぜPenではなくPencilなのかと疑問に思った。
だが、よく考えてみれば、筆や万年筆などのインクに浸して使うペンであれば、筆圧やペンを構える角度で豊かな線の広がりを表現することができたが、今日のペンの主流であるボールペンはそうした細かなニュアンスの違いを表すことができない。
それに対してPencil、つまり鉛筆であれば、筆圧で線の濃さや太さも変われば、構える角度によっても違う線を表現する。Apple Pencilは、まさにそんな指先の延長のようにニュアンスを伝えることができる。ペンを倒して描くと、まるで鉛筆を倒して描くときのように鉛部分の長辺を生かした太い線が描けるのだ。
ちなみにアップルは、このApple PencilのためだけにiOS標準のノート機能を拡張している。iOS 9から新たに加わる手描きモードに切り替えると、まるで専用のお描きアプリのように筆の種類やインクの色を選ぶこともできれば、まっすぐな線を引きたいときは、画面上に表示したソフトウェア定規を置いて、その上をなんとなくなぞるとブレが補正されて定規に沿ったまっすぐの線が描かれる。
メールのアプリもApple Pencilをサポートしており、添付画像書類を開いてその上にメモを手書きして返信できる機能がついた。校正などに便利そうだ。
さて、そんなApple Pencilに、もう1つ不思議な点があった。充電はLightning接続で行うのだが、なんとその端子がオス型(凸型)端子なのだ。一般の電子機器では、充電される側はメス型(凹型)端子を備えているイメージが強いだけに不思議だが、これは充電ケーブルを忘れてもApple PencilをiPad Proに刺してすぐに充電できるからだと分かった。
しかも、このApple Pencilのおかげで、Lightningケーブルに隠されたとんでもない秘密が明らかになった。なんと、Lightning(イナズマの意味)ケーブル経由だと充電が圧倒的に早い。iPad Proにたった15秒間(「分」ではなく「秒」である点に注目!)挿すだけで、Apple Pencilが30分利用できるだけの充電を果たせるのだ。
Apple Pencilは本体側にホルダーもついていなければ、クリップもついておらず、携帯時になくしてしまわないか少し心配だが、余計な要素を排除したおかげで、単体で見たときもシンプルで美しい製品に仕上がっている。
iPadは、これまでITがあまり活用されてこなかった領域で革命とも言えるほどの変化をもたらしている一方で、法人利用ではそれほど画期的な使われ方をしてこなかった。だが、アクセサリーも充実した今回のiPad Proは、アップルが法人営業でIBMと組んだこととも併せて、かなり有望な製品になるのではないかと思う。
完全にマイクロソフトのSurfaceと一騎打ちになりそうな側面があるが、マイクロソフトもこの製品は歓迎しているようで、手描き図形認識をするPower Pointなども含めたiPad ProとApple Pencilに対応したOfficeが同時に発表されている。
また、アップルがペン入力をサポートすることを切望していたアドビもApple Pencilを使って簡単に顔写真の表情まで修正できるアプリ、Photoshop Fixを発表したほか、手描きした雑誌レイアウトのラフデザインをそのまま最終的な雑誌レイアウトにまで持っていけてしまうアプリを紹介している。この辺りの詳細は、来月開催されるADOBE MAXで発表されるようだ(ちなみに筆者は取材する予定)。
これに加えて、スペシャルイベント後のタッチ&トライコーナーでは、AutoCADによるかなり本格的なCADプログラムのデモが行われていた。街の一区画の配管などの詳細がすべて入った巨大なCADデーターをストレスなくiPad Proに入れて持ち歩き、現場で見ることができるというそのデモは、土木などの作業現場に革命をもたらす予感を感じさせた。
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