Cintiq使いのプロが見た「iPad Pro」の優秀さと限界:ワコム超えなるか(2/2 ページ)
「iPad Pro」と「Apple Pencil」でイラスト仕事は完結するのか? 「Cintiq Companion」ユーザーのイラストレーターが試してみた。
果たしてきちんと1枚絵を完成できるのか?
ラフ&スケッチ用デバイスとしては大変満足できた。そうなると気になるのは、きちんと1枚絵を完成させることができるかどうかということ。
ちょうど寒中見舞いの季節だったので、それ用の1枚絵を描いてみることにした。使用アプリは「Paintstorm Studio」に変更。
理由は、普段使っている「Photoshop」と似たレイヤー構造を作れる「クリッピングマスク」「グループ化」が使えることと、スポイトツールへのアクセスがいいことの2つ。
下描き、下塗り、描き込み、仕上げと作業を進めていく中で、ラフスケッチで遊んでいたときには見えなかった問題点がいくつか見えてきた。
1:下描き
2:下塗り
下描き、下塗りの段階は非常に順調。キャラクターや色ごとのレイヤー分けもしっかりできている。
3:描き込み(ここで挫折)
描き込みをする辺りから、Paintstorm Studioが頻繁に落ちてくる。また、タッチボタンによるツール変更がキーボードなどに比べて手応えがなく、ミスタッチも目立ちはじめた。
ラフスケッチのときには気にならなかったストレスが作業を重ねるたびに蓄積され、徐々に集中力がそがれていく。
結局、iPad Proでの作業はここで断念。
4:仕上げ(ここからPC+Photoshop)
最後までiPad Proで描ければよかったのだが、途中で挫折したので最後はPC+Photoshopで仕上げをした。コンポジット&エフェクト処理はiPad Proでもできるだろうが、スピードやソフトの安定性の面で雲泥の差が……。
結局、iPad Proだけで1枚絵を完成させることはできなかった。
仕事機として見るiPad ProとApple Pencil
まだ使い込んだわけではないが、現状では「イラスト仕事をiPad Proだけでこなすのは、不可能ではないけれども難しい」という印象だ。
先述したように、レイヤー数が増えたときのPaintstorm Studioの安定性がいまひとつな他、タッチ機能の精度、手のひらの誤認識、ホバリング時のカーソル非表示など、作業の精度を下げてしまう要素がいくつか見られたからだ。
また、根本的な問題として、現状ではキャンパスの解像度やカラーモードの自由度が低く、納品データをクライアントが望むフォーマットに調整する作業は困難を伴うだろう。
繰り返すが、あくまで現時点での感想である。これらの問題も徐々に解決されていくはずなので、近い将来PCと同等か、それ以上の絵描き環境になる可能性は秘めている。
Cintiq Companionとの違い
今仕事で使っているCintiq Companionと比べるとどうか。今のところ、両機は異なるコンセプトによりすみ分けられていると感じた。
Cintiq Companionは非常に高スペックかつWindows OSを搭載するため、イラスト仕事の全工程を1台で完結できる。しかし、サイズや重量、ファンからの排気熱の激しさなどから、スケッチブックとして気軽に使う用途には向かず、じっくりと腰を据えて作業する必要がある。筆者の場合、クライアント企業に出向して作業するときなどに使用することが多い。
一方のiPad Proは、その逆。軽い上にファンの騒音や排気がなく場所を選ばないため、スケッチブックに最適だ。今まで、そういった用途でここまで完成度の高いデバイスはなかったと思う。
これ1台ですべて完結とはいかないが、持ち歩けるデジタルスケッチブックを探している同業者にとっては非常に魅力的なのは間違いないだろう。
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