使って分かったM4チップ搭載「iPad Pro」のパワフルさ 処理性能とApple Pencil Pro/Ultra Retina XDRディスプレイ/新Magic Keyboardを冷静に評価する:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/4 ページ)
Appleが5月15日に発売する新しい「iPad Pro」は、想像以上にパワフルだ。しかし、用途によっては「iPad Air」でもいいかもしれない――iPad Proを中心に、実機に触れつつレビューしていこう。
ベンチマークテストで知る「M4チップ」のパフォーマンス
次に、新しいiPad Proの“実機”でなければ体感できないテーマとして「M4チップ」について話を進めたい。
「M3チップ」がMacに初搭載されて1年足らずで“新世代”SoCが出てくるというのは、タブレットはもちろん、PCやスマートフォン向けのSoC(CPU/GPU)の歴史から見ても前代未聞のことだ。
ハンズオンレポートで「『何でMacじゃなくてiPad Proが先行するんだ……」と釈然としない思いを抱くのも不自然ではない』」と書いたこのM4チップだが、iPad Proを通して試してみると、同じ3nmプロセスのSoCとは思えないほど、着実な進化を遂げていた。
数値的なスペック比較をすると、M4チップはM3チップ比でNeural Engine(NPU)の処理パフォーマンスが約2.1倍向上している。GPUアーキテクチャは不変なものの、レイトレーシング(RT)アクセラレーターが改良されたことで、RT処理のスループット(実効速度)が2倍になっている。
M4チップでは、SoCの他ブロックも改良された3nmプロセスに最適化され、処理パフォーマンスが改善された――そうは聞いていたのだが、実機で試してみるとCPUコアが想像以上に良くなっていることが分かった。
ベンチマークアプリ「Geekbench 6.3」の計測値が正しいと仮定すると、CPUコアのピーク性能は最大で17%向上している。最大動作クロックは4.1GHzから4.4GHzと、300MHzほどしか上がっていない……のだが、率換算するとクロックだけで9%もパフォーマンスを引き上げたことになるため、そこそこにすごくはある。
加えて、M4チップではCPUのEコア(高効率コア)が4基から6基に増加している。これも大きなポイントで、ほとんどのアプリケーションのCPU負荷は、Eコアだけで対処(吸収)できてしまう。つまりPコア(高性能コア)の性能が改善しても、このコアが活躍するシーンは限られることになる。
とはいえ「メモリアクセス回りの最適化で、CPU(コア)性能が良くなった」ことも加味しても、ここまでスコアが伸びるのは予想外だった。この伸びのヒントとしては、Geekbenchアプリが新たに対応した「CPU命令」もあるかもしれない。
Geekbenchの最新版「バージョン6.3」のリリースノートには「『Scalabele Matrix Extentions(SME)』に対応した」と書かれている。このSMEという命令は、Armの最新CPU命令セット「Armv9」で追加されたものだ。
Appleは名言していないものの、M4チップはArmv9命令に対応しているといううわさがある。断言はできないが、新しい命令セットが使えることもベンチマーク結果に“プラス”となった可能性はある。
また、M4チップのCPUはEコアの性能が相当に向上していると思われる。というのも、マルチコアのピーク性能が「M2 Maxチップとほぼ同等になっているからだ。本体の厚さが5.1mm(13インチモデルの場合)と極めて薄いながらも、新しいiPad ProのCPU性能だけを見ると、M2 Maxチップを搭載した当時のハイエンド「MacBook Pro」と同等の性能が出ていることになる。
M4チップについて、筆者は当初「M3チップにEコアを2つ追加して、GPUコアを小改良して、Neural Engineのアーキテクチャを『A17 Proチップ』と同等にしたもの」だと想像していた。しかし、実はかなり“根本的に”手を入れられてることが分かった。
もっとも、より汎用(はんよう)性の高い使われ方をするMacと比べると、iPad Proではアプリがチップを生かすための環境作り(≒アプリの充実)が鍵を握る。そういう意味では、6月に行われる開発者向けイベント「WWDC 2024」は非常に重要になってくるだろう。
Neural Engineの威力を知るのはまだ難しい?
一方で、M4チップの新しいNeurtal Engineに関しては、そのポテンシャルに関して伺い知ることはまだ難しそうだ。というのも、APIを通じてさまざまな推論アルゴリズムをテストするベンチマークテストをやってみたものの、スコア的な意味で従来との大きな違いを見つけられなかったからだ。
今回はGeekbenchアプリ内にある機械学習パフォーマンステスト「Geekbench ML」を用い、M1チップ搭載の13インチiPadと比べる形で幾つかの推論処理のテストを行った。当初は「データのパターンによってはスコアに大差が付くのでは?」と予想していたのだが、思ったほどの差にはならなかった。
もちろん、Neural Engineのコアの改善や動作クロックの向上の結果と思われる、スコアの改善は見受けられる。しかし、それは「2倍速い」というほどの大差ではない。
このベンチマークテストでは「FP32(単精度浮動小数点数)」「FP16(半精度浮動小数点数)」「INT8(8バイト整数)」の3パターンで各種推論処理を実施し、そのパフォーマンスをスコア化しているのだが、いずれかのパターンでM4チップのスコアがガツンと伸びるということはなく、どのパターンでも性能の向上幅はほぼ“均一”だった。
この結果を詳細に掘り下げていくには、少し時間が掛かると思う。少なくとも、従来型のベンチマークテストでは新しいNeurtal Engineの性能を評価することは難しい。
言い換えれば、何らかの「使いこなし」が必要ということであり、やはり6月のWWDC 2024の開催が待たれる(A17 ProチップのNeural Engineにも同じことがいえる)。
今回、新しいiPad Proと同時発表された、新しいバージョンの「Final Cut Pro」や「Logic Pro」では、M4チップの新しいエンジンの性能を発揮するための実装が行われていると想像される。また、OS側でも何らかの対応しているはずだ。
これらのアプリは“Apple純正”であるがゆえのアドバンテージといえるが、さらにそこの先、どのようなアプリでの応用があるかは、まだ未知数な部分もある。
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