フルカラー電子ペーパーの夜明け:「SID 2010」リポート
SID 2010では、メジャーなE Inkをはじめとする多くのベンダーからフルカラー電子ペーパーの発表が相次ぐなど、電子ペーパー業界は新たな成長段階を迎えた。
プラスチック基板で紙のような軽さを
Plastic Logicは、プラスチック基板を使用した初の電子ブックリーダーとして2010 International CESで注目を集めた「QUE ProReader」を改めて紹介した。タッチスクリーン機能を備えたQUE ProReaderのディスプレイは8.5×11インチのレターサイズという大画面だが、デバイスの厚さは3分の1インチと非常に薄型、かつ、軽量で、“紙の本”感覚で持ち歩ける。同社は、この超薄型電子書籍リーダーを可能にした技術をシンポジウム「E-Paper ?」セッションで説明している。
QUE ProReaderは、Kindleと同じくE Inkの電子ペーパー技術をベースとしているが、ガラス基板の代わりにプラスチック基板を搭載するため、シリコンベースの半導体ではなくフレキシブルディスプレイに多く使われている有機半導体を採用している。有機半導体は高温プロセスを必要とするシリコン半導体とは異なり室温で形成できるので、プラスチック基板を溶かすことなく電極を形成可能だ。
なお、有機半導体の配線は、シリコン半導体で使われるフォトリソグラフィーではなく、プリント技術を使用するため、一般にディスプレイの高精細化は難しいが、Plastic Logicでは150ppiで1280×960ドットの高解像度表示を実現している。
エレクトロウェッティング法の電子ペーパーも製品化へ
E-Paper ?のセッションでは、エレクトロウェッティング法を提唱するLiquivistaとGamma Dynamicsも登場した。エレクトロウェッティング法とは、油膜が水をはじく特性を利用するもので、油の表面形状を通電して変えることでディスプレイのスイッチングを行う技術だ。E Inkの「マイクロカプセル型電気泳動法」とはまったく異なる方式だ。
エレクトロウェッティング法ではアクティブマトリクス方式のLCDと同様の背面板を使用し、前面板はLCDの製造工程をいくつか省いたプロセスで生産できるなど、LCDの製造設備と互換性があり、容易に製造できるという。Liquivistaが採用するエレクトロウェッティング法は、既存のLCD用製造設備と90%の互換性を有しており、2012年までに100%を実現するとしている。
Liquivistaは展示会場にブースも出しており、エレクトロウェッティング法を採用したフルカラー電子ペーパーを展示していた。2011年の第2四半期に製品化を予定している。
フルカラー電子ペーパーは実用化の段階に入った
SID 2010の会場では、多数のフルカラー電子ペーパーが展示された。この業界で独走状態のE Inkは2種類のフルカラー電子ペーパーを出展している。どちらもカラーフィルタを採用したモデルだ。このうち1モデルは2011年の製品化を予定している。
Samsung LCDとLG Displayのブースでは、E Inkの電子ペーパーを応用したデバイスが登場した。Samsung LCDは、プラスチック基板の電子ペーパーと反射型デバイスに最適化されたカラーフィルタを採用した10.1型フルカラー電子ペーパーの試作品を、LG Displayは、9.7型のフルカラー電子ペーパーをそれぞれ展示している。
なお、LG Displayの試作品は、カラーフィルタではなくE Inkの電子ペーパーに直接カラーコーティングする方式で、カラーフィルタを省いた分だけ薄型化と軽量化、そして、コントラスト比の向上を実現した。説明員によると、カラーフィルタを採用したデバイスの重さは130グラムだが、LG Displayの方式だと72グラムにできるという。こちらは、2010年10月の製品化を予定している。
また、独自に開発した電子粉流体方式の電子ペーパーを手がけるブリヂストンは、タッチパネル方式のデバイスを展示した。銀行の営業部員が顧客を訪問するときに持ち歩くことを想定しており、個人情報の守秘義務に関する項目にその場でサインをもらい、Bluetoothで携帯端末に飛ばす仕組みになっている。6月から試験運用を開始して、2010年に製品化する予定だ。
SID 2010で展示されていたフルカラー電子ペーパーの試作品は総じて完成度が高く、製品化までのスケジュールが確定しているものが多かった。2010年から2011年にかけて、フルカラーの電子ペーパー市場がいよいよ離陸しそうだ。
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