“あの製品”がトップの座を明け渡したわけ:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
それにつけても「ランキング」は面白い。昔から定番のニュースネタだ。今回は、そのランキングに“踊らされる人”と“躍らせる人”のせめぎ合いを観察する。
自社備品も買い出ししてまでランキングの上位を目指せ
一方で、ここまで述べてきたようなバリエーション戦術を逆手に取り、1つのモデルで勝負をかけて、ランキングで上位に登場して製品の存在感をユーザーに訴求するのは、偶然性に左右される条件が多いが、起こりえないことではない。iPad 2シリーズを抑えてランキングトップとなったAndroidタブレットのベンダーがこうした広告戦術を狙って行ったのかどうかは定かではないが、計算していたのだとすれば、露出効果という意味では評価できる(そのあとのユーザーの反応は考慮しないという条件付きだが)。
ランキング集計の仕組みを理解した上で、ベンダーが自分たちの製品をランキングで上位にしようと画策するケースは珍しいことではない。「全国店舗のPOSによる売上データの集計結果」という、恣意性の少ないデータであるだけに、ユーザーに対する信頼性と訴求効果は高い。そのため、メーカーはあらゆる手段で、自分たちの製品がランキングで上位になるように試みる。ランキングで上位になる条件は「集計対象店舗で」「POSを通過」させることだ。店舗に納入しただけではダメで、実際に売れてPOSデータを通過しなくてはならない。ランキングに参加していない店舗でいくら売れても意味はない。
この作戦で重要なのは、「ランキングで評価するのは売れた個数であって金額ではない」ということだ。標準価格で売ろうが、相場を大幅に下回る価格で売ろうが、1台売れれば1ポイントとしてカウントされる。ベンダー側が赤字もやむを得ないと考えるなら(もちろん購入するユーザーがいることが前提だが)、販売個数は意外と容易に伸ばせる。
この結果として、ランキングの“年間”集計結果が発表される年末によく発生するのが、激安の型落ち製品を“ランキング参加店舗”に大量投入し、販売個数を増やす戦術だ。ランキングを定期的にチェックしていると、店頭でほとんど見たことがなく、しかも、機能的になんの特徴もないマウスなどの周辺機器が、突然ランキングの1位や2位に顔を出すことがある。
かつて、ランキングは業界の企業シェアに注目して、最大手ベンダーが競うものだった。しかし、最近では単品シェアが話題になることも増えたため、中堅や小規模ベンダーも参戦できる機会が増えている。中堅や小規模ベンダーは販売店にまんべんなく製品を投入できないので、特定のチェーン店だけに特価で突っ込むことが多い。そのため、別の店舗ではまったく見かけなかったりすることもある。
いずれにしても、ランキングで購買行動を決定するユーザーが多ければ多いほど、ベンダーはランキングの上位を目指す。ベンダーが自社製品の社内使用分を手配する場合に、自社の倉庫から在庫を引くのではなく、わざわざ販売店に買いに行くケースすらあるほどだ。そういうとき、「仮払金渡すから社内で使う場合でもこの製品を購入すること。ただし、最寄りの販売店はランキング対象外だから、遠いけど○○電器で購入するように」などという会話が交わされている。数個程度の数が大勢に影響をあたえることはなく、意味がないといえばそれまでだが、ベンダーとってランキングの順位には、それほどまでに価値があるという。
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