世界最安タブレット「Aakash」の謎をムンバイで探る!:山谷剛史の「アジアン・アイティー」(2/2 ページ)
2500ルピー、日本円にしてなんと4000円弱という「Aakash」。開発したインドで最大の都市「ムンバイ」にAakashの真実を追った!
インドの誰もが知っているが誰も見たことがないという
ムンバイでAakashを購入するなら、まずは教育機関だろう、と推測してムンバイ大学に行ってみた。しかし、キャンパスで、タブレットデバイスを使う学生は皆無で、そのほとんどが携帯電話、もしくは、スマートフォンを所有するのみだ。理工系校舎やそのほかの校舎にAakashの宣伝はなく、大学内売店でも扱っていない。
ムンバイ大学でAakashを見つけられないとなると、頼みは通称「レミントンロード」と呼ばれる電脳街だ。電車に乗って最寄りの「Grant Road」駅で下車し、ムンバイの電脳街を目指す。インドでは涼しくなる夕方から人出が多くなるので、ショップは遅い時間まで営業している。中国のショップでは、“比較的”きれいで若い女性が店員をしていることが多いが、インドでは“見るからに”ガジェットに詳しそうな男性が相手をしてくれる。
そんなレミントンロードにあるショップをローラー作戦でチェックしていくが、Aakashはどこにもない。ショップの多くは、ショップブランドPCから周辺機器、そしてもちろん、タブレットデバイスといった幅広いジャンルを扱い、その多くで複数メーカーの製品を並べてる。それなのに、インドが誇るAakashがない。
ショップのスタッフに聞いてみると、「Aakash? 知っているけれど、このショップでは扱っていない。2500ルピーと安いので俺だって欲しいよ。でも、レミントンロードで一度も見たことはないね。Aakashは大学生向けのモデルだから、購入するにはオンラインで予約するしかない」と誰もが答える。そう答えたショップのほとんどが、「Aakashもどうせ“メイドインチャイナ”だから、この中国製タブレットデバイス(ノンブランド製品=山寨機)を買っていけ」と勧めるか、「インドのiBallはどうだい?」と勧めてくる。ちなみに、iBallとはインドで最大手の周辺機器メーカーで、扱うカテゴリーは幅広い。
結局、ムンバイ最大の電脳街でもAakashは見つからなかった。失意とともに体を電車のシートにうずめながら、近くのインド人に「Aakashを探しているんだ」と問いかけたとたん、「知ってるよ、激安タブレットだろ?」と四方八方から返ってきた。ムンバイの誰もがAakashを知っているのに、誰もが買いたくても買えず、見たことすらない。「俺も見たことはないさ」といったあとに「あれはインド政府のだましだよ」「宣伝にはめられたな」「いや、インド政府が大量に発注したものの、金がないからできた製品を買えないんだろう」とそれぞれに“分析”する。「僕もAakashをネットで注文したけど、まだ来てないどころかお金の請求すら来てないんだよ」という高校生の証言まででてきた。
“Aakashが配られた”といい伝えられているムンバイでは、多くの人がAakashを知っているが、そのユーザーはおろか、実物を見た人に出会うことすらできなかった。インドが誇るAakashは実在して、そのすべてが誰もが見ることができないところで秘密裏に使っているのかもしれないし、オンライン予約フォームに“SoldOut”とありながら、実際は出荷してないのかもしれない。
「うそを見抜く力が必要」とはインターネットを使う場合の基本であるというが、国家プロジェクトで盛り上がるAakashも、それが事実なのか都市伝説なのかの判断は、少なくとも、一般市民の視点ではできないというのが現状だ。
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