2014年、PCはどう進化するか?:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
2013年はHaswellにBay Trail-Tという電力効率の高いプロセッサが登場し、WindowsのモバイルPCやタブレットが大きく進化した1年だった。2014年にPCはどこへ向かうのだろうか。
2014年の注目は「PCの適応領域拡大」
一方、Intel Coreプロセッサのラインアップやロードマップから目線を外してみると、今年のPCには大きな変化が期待できるかもしれない。Intelは現在メインストリームになっているIntel Core搭載PC市場の成熟に対応し、より小型のデバイスへと適応領域を広げようとかじを切っている。
特にタブレット市場で、どのような立ち位置を“PC”が確保できるかが注目される。タブレット市場の振り返り記事でも指摘したように、iPad的な「クラウドへとつながる窓」としてのタブレットとは異なる市場を、Windowsタブレットは作りつつある。
それは多分にPC的なアプリケーション領域で、PCタブレットがPC市場を侵食するカニバライゼーションに見えるかもしれない。しかし、PC市場の成熟が進んだ今は、そうも言っていられない。PC的な「生産性重視」のパーソナルコンピュータ文化をタブレットの世界に持ち込み、そこに市場を形成することができるならば、多少のカニバライゼーションよりも新たな適応領域へと足を踏み入れていくほうがいい。
Windowsの年次アップデート(Windowsは毎年アップデートが行われる予定)次第という側面もあるが、ハードウェアの面ではWindowsタブレットや、Microsoftが自ら展開する「Surface」のように、タブレットにキーボード機能をうまく組み合わせた製品の開発が盛んになるだろう。Ultrabookにタブレットを統合した前記の2in1デバイスと似ているが、タブレットに軸足を置きつつ、ノートPC的に使える製品が増えていく。
Windowsタブレットの主力プロセッサであるBay Trail-Tは、電力あたりの性能でARMプロセッサに負けないようになったが、さらに2014年内にはSilvermontの後継となるAirmont(開発コード名)コアを採用する次世代のCherry Trail(開発コード名)搭載製品も登場する予定だ。14ナノメートルプロセスを使うCherry Trailは、CPUコアの機能面での強化は行われないが、パフォーマンスあたりの消費電力改善や動作クロック周波数の改善が期待できるほか、新しい世代のGPUが搭載される予定になっている。
Bay Trailですでにその兆候が見られるが、Cherry Trailでは、十分な操作性を持つキーボードなどを用意すれば、多くのPCにおける作業を代替できるようになるだろう。またBay Trailに“D”や“M”があるように、Cherry TrailにもデスクトップPCやノートPC向けの製品提供があると考えられる。
WindowsタブレットとWindows PCの境目は、すでにあやふやになっているが、今後はPCメーカーからさらに多様な提案がなされるのではないだろうか。
また、InstantGoへの対応が進めば、第4世代Core Yシリーズも、この「曖昧な境目」で注目の存在になるかもしれない。第4世代Core Yシリーズは2 in 1デバイスを想定したプロセッサで、Ultrabook向けの第4世代Core Uシリーズより性能を抑える代わりに、より低消費電力で動作する。もちろん、Bay Trail-TことAtom Z3000シリーズと比較すると、消費電力は激しいが、性能も高い。
いずれにしろ、こうしたPCにおける適応領域の拡大はIntelのロードマップに沿って……というよりも、PCメーカー側の主導でトレンドが生まれると思う。Intelが決めた消費電力バジェットの中で、各社がどんな製品をイメージするのか期待したい。
「ウェアラブル」にどう対応していくのか
さて、ここまで「PCの適応領域」がどう広がっていくのかをIntelのロードマップとともに考えてみたが、実のところ従来的な概念での“PC”については、製品進化の基礎部分を支えるプロセッサの着実な進歩が見込めることもあり、周囲が言うほどに「PC業界はダメになってきた」とは思わない。
むしろ「PCでしかできないこと」の理解が進んできたことで、多少、個人向けの道具として、PCへの揺り戻しが起きるのではないかと思っている。とりわけAtom搭載Windowsタブレットの今後に注目している。MicrosoftもWindows 8でやや道を踏み外した感もあったが、過度にラディカルな方向に行くのではなく、PCの長所を引き出せる方向へと軌道修正が入ったことで進む方向が安定してきた。
特に日本市場に関して言えば、日本語入力の問題か、あるいは動画配信などコンテンツ流通の違いからか、iPad型のタブレット市場は北米や欧州ほどには伸びていない。PC的なプロダクティビティを生かした訴求をすれば、PCを起点にしたトレンドは生み出せる余地があるように思う。
しかし、一方で懸念点もある。かつてPCは新たなインターネットサービスや周辺デバイスが生まれる源流となっていたが、今ではスマートフォンを起点にあらゆるトレンドが生まれている。
今年で言えばウェアラブルデバイスが、昨年以上に豊富に登場するだろう。ウェアラブルデバイスには、新しいユーザーとの接点となることを意識した「Google Glass」のような製品と、センサーを内蔵することで行動を記録していくライフロガー系の製品に大別できる。
とりわけ後者の機能はスマートフォンが持つカメラやGPSなどと連動することで、新しいサービスの起点になっていくと思う。しかし、それらとペアリングされる「コンピュータ」としてPCは想定されていない。
PCは便利な道具だが、常に話題になるようなトレンドが集まるデバイスではなくなりつつある。そうした中で、どのように新たなトレンドとPCとの関係を作っていくのか、話題に入っていけるのか。そこに、PCにかかわる主要な企業が取り組むべきテーマがある。
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