AIアシスタントでAmazonとMicrosoftが手を組む理由:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/2 ページ)
Amazon.comの「Alexa」とMicrosoftの「Cortana」。2017年内に大手2社のAIアシスタントが相互に利用可能になる。この提携の背景には何があるのだろうか。
AppleとGoogleがAIアシスタントで譲れない理由
前述の記事でベゾス氏が語っていたのは、「AIの連携によって互いの弱点を補える提携は常にウエルカムだ」ということだ。「Siri」のAppleや「Google Assistant」のGoogleには働きかけなかったようだが、どちらも意思さえあれば、いつでも提携の準備があると述べている。
その意味で、今回のAmazon.comとMicrosoftの組み合わせは非常に相性がいい。日々の買い物からエンターテインメントまで、コンシューマーの行動に関するデータを全て持ち、さらに決済までの導線を持っているという点でAmazon.comに太刀打ちできるIT企業は、(ローカルマーケットでの競合を除いて)世界的に見ればほぼ存在しない。
一方で、MicrosoftはOutlookやOffice 365を通じて、日々ビジネスでやりとりされるメールや連絡先、スケジュールといった膨大なデータを把握しており、Cortanaを通じて簡単に引き出すことができる。
つまり、AlexaとCortanaが得意とする領分は完全に異なっており、両者が合わさることで日々の生活からビジネスでの活用まで、全てをカバーできる。先ほど、家電市場を見たときにCortanaよりもAlexaだと述べたのは、こうした理由による。サードパーティーもそれぞれの特性に合わせたスキルを開発しているわけで、これ以上ないうまい組み合わせだと言えるだろう。
もう1つ、両社には興味深い共通点がある。どちらも「モバイル」というプラットフォームで足掛かりを失っており、特にスマートフォン分野ではAppleやGoogleに依存せざるを得ない点だ。
現在、多くのインターネットユーザーはスマートフォンやタブレットなどのデバイスを情報収集やエンターテインメントに利用しており、日々の行動データを収集されている。逆に、AIアシスタント分野におけるAmazon.comとMicrosoftの連合に対して、AppleやGoogleが秀でているのはこの部分であり、優位性を確保するためにも両社との提携は避けたいはずだ。
ビジネスモデルの違いもある。Microsoftはクラウドの利用促進によるAzureやOffice 365での収益増が重要だ。Googleはユーザーのトラフィック増で広告収入増を目指している。Amazon.comはEchoデバイスを安価にばらまいている印象があるが、そこからコンテンツや商品の販売増につなげるのが目的で、さらにAmazon Primeで囲い込めれば御の字だ。Appleは、いずれの場合でもデバイス販売で売り上げを稼がなければいけない。
つまり、提携によってAmazon.comやMicrosoftは一方的にメリットを享受できる可能性があるが、コアとなるデータを他社に利用される可能性のあるGoogleや、自身のデバイス販売増につながる可能性はほぼ皆無なAppleはその限りではない。Appleが今のところ「HomePod」にそれほど力を入れているように見えないのは、「デバイス単体で稼がなければいけない」という理由にあるとみている。
いずれにせよ、今回の提携は業界の対立構図をあらためて浮き彫りにしたようで面白い。AWSとAzureというクラウドサービス分野では競合するAmazon.comとMicrosoftだが、それ以外の面では非常に相性のいいベストカップルなのかもしれない。
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