ジョブズ時代から「個人情報で商売しない」を掲げてきたAppleのブレなさ:ITはみ出しコラム
米国でFacebookの不正データ流出問題が騒がれる中、Appleのティム・クックCEOが「自分たちは個人情報を売ったりはしない」と断言。実はジョブズ時代から、Appleは同様のスタンスを貫いています。
Appleが3月30日(日本時間)に「iOS 11.3」をリリースしました。iOS端末ユーザーの皆さんはもうインストールしましたか? インストール中、こんな画面が出て「Facebookの不正データ流出問題があったしなぁ」と思った人もいるのではないでしょうか。
これはでも、もちろんFacebookへの当てつけとかではなく、欧州連合(EU)が5月25日(現地時間)に施行する「General Data Protection Rules(GDPR、一般データ保護規則)」に向けての準備の一環のようです。
GDPRは、これまでのEUのユーザー保護関連規則より厳しくなって、「忘れられる権利」やプロファイリングの拒否、明確なプライバシーポリシーの提示などが求められます。施行後は、EUで商売している企業はみんな、これを守らないと世界での年間売上高の4%または2000万ユーロ(約26億円)のどっちか高い方の制裁金を科せられます。
Appleは、FacebookやGoogle、Twitterのようにサービス上に表示する広告でもうけるビジネスモデルではない(主な収入源はiPhoneなどのハードウェア)とはいえ、ユーザーの住所氏名、クレジットカード番号などいろいろ個人情報を集めているので、GDPRのために準備する必要があります。
Appleは昔から一環して「個人情報を商売にしない」とはっきり言っています。最近ではFacebookのスキャンダルを受け、ティム・クックCEOが3月24日(現地時間)に中国で企業によるユーザーの個人情報利用については、適切な法的規制が必要と語りました。
クック氏は、Appleが3月27日(現地時間)にシカゴで開催した教育関連イベント後に、米Recodeのカーラ・スウィッシャー氏と米MSNBCのクリス・ヘイズ記者を相手に収録したインタビューでは、「われわれが顧客を製品だと考えて、顧客データをマネタイズすれば莫大な金を稼げるだろう。だが、そうしないことを選んだ。われわれは、プライバシーは人権だと信じているからだ」「最善の規制は自主規制だが、もうその域を超えてしまった(手遅れ)と思う」と語りました。
クック氏は2015年にも、「顧客をなだめすかして個人情報について油断させることでビジネスを成立させるような企業にはなりたくない」とシリコンバレーの著名な複数の企業を批判しました。
さらにさかのぼると、故スティーブ・ジョブズ氏が2010年に既に、GoogleやFacebookのユーザーデータのマネタイズについて警鐘を鳴らしています。
2010年のD8でのスウィッシャー氏とウォルト・モスバーグ氏との対談の動画を久しぶりに見たのですが、あらためてジョブズ氏のぶれなさ加減に感服しました(プライバシーについては以下の動画の68分目くらいからです)。
*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
以下は主な発言内容です。
「われわれのプライバシーについての見解は、シリコンバレーの隣人たちの一部(GoogleやFacebookのことですね)とはかなり異なる。Appleはプライバシーを非常に真剣に考えている」
「プライバシーというのは、人々が自分が何にサインアップしているのかを分かりやすい英語で何度も説明し、理解させることだ」
「私は人々が賢いと信じているが、それでもしつこく、やめてくれと言われるまで、アプリが集めたユーザーのデータで何をしようとしているのかを説明する」
「シリコンバレーの多くの人々がわれわれのこのやり方を古臭いと思っていることが非常に心配だ」
Facebookとは随分違います。Facebookの(これまでの)プライバシーについての説明は、フィードバックがあったと自ら認めているように、サービス上に分散していて確認が難しく(今回改善する予定です)、なんだかわざと分かりにくくしているのかと思うくらいでした。Facebook Messengerのインストールでも、(実際は避けることもできますが)端末内の連絡先と連携しないと先に進めないようなUIになっています。
ジョブズ氏の対談は、米Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOも聞いていたはずです(モスバーグ氏が舞台の袖に向かって「マーク、聞いてるかい?」って言っていました)。D8で3日後にはザッカーバーグ氏もスウィッシャー&モスバーグコンビと対談し、プライバシーについての質問に汗だくになって(当時のトレードマークだった)パーカー(フーディー)を脱いでいました。
あのころザッカーバーグ氏がもう少しジョブズ氏の言うことを真剣に考えていれば、とつい思ってしまいます。
ザッカーバーグ氏は4月10日に上院が開催するプライバシー問題についての公聴会に出席する見込みです。これには米Googleのスンダー・ピチャイCEOと米Twitterのジャック・ドーシーCEOも呼ばれています。あちらの公聴会は、かなり厳しい質問が投げられるものなので、ザッカーバーグ氏はまた汗だくになりそうです。
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