iPhoneの強みを反映した「Apple M2」登場 Appleの「黄金パターン」に弱点はあるのか?:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
AppleがMacにおいて自社設計のSoC「Appleシリコン」を採用する動きを強めている。Appleシリコンの展開において重要なのはiPhoneや一部を除くiPadで採用されている「Apple Aチップ」である。それはなぜなのか、ひもといていこう。
より良い形でiPhoneの開発成果を発揮する「Apple Mチップ」
Appleの半導体戦略は、iPhone用の「Apple Aチップ」を軸として展開されている。スマートフォンに使われるSoCが軸ということは、そもそもの電力効率を高めることが重視されていることは言うまでもない。CPUコアを始めとする各機能ブロックにおける電力制御もきめ細かく行われている。
Apple M1チップが登場した時、筆者はPCというジャンルに収まらない高い電力効率に驚かされた。もしかすると、スマートフォン向けの技術を応用することで熱を抑えながらここまでパフォーマンスを高められるという“ショーケース”になっているのではなかとも思った。
あまりにも衝撃的だったこともあり、「Apple Mチップ」の次世代モデル、つまり今回登場したApple M2チップは、ある意味で“ラディカル”な進化を遂げると思っていた。しかし実際に登場したM2チップは、想像したよりも保守的な進歩にとどまっていた。
もちろん、ベンチマークテストを実行すればM1チップよりも高いパフォーマンスを確認できるだろうが、恐らく大きな驚きは伴わないだろう。CPUコアのアーキテクチャはA15 Bionicにも搭載されている「高性能コア(Pコア)」と「高効率コア(Eコア)」の組み合わせで、ISP(イメージシグナルプロセッサ)やNeural Engine、GPUなどの基本仕様は大きく変わっていない。パフォーマンスの向上は、ユニファイドメモリのインタフェースがより広帯域な「LPDDR5」規格に切り替わったことによる恩恵が大きくなると思われる。
M1チップのコンセプトをそのままに、Appleが手にする最新の持ち駒(機能ブロックやそれに伴う信号処理技術、ライブラリセットなど)を用いつつ、チップの製造を担当するTSMCの技術や生産の歩留まり改善に合わせて再構成したものがApple M2チップといえば良いだろう。
他のCPU/SoCベンダーが新しいアーキテクチャを発表しても、実際に生産/出荷にこぎ着けるまでに時間を要している所からも分かる通り、半導体の設計から製造に至るまでには数年かかる。新しい「MacBook Air」と「13インチMacBook Pro」は、M2チップに“合わせて”用意した新モデルというよりも、ポートフォリオを並べた際に、M2チップをリリースするタイミングで用意できるベストな新モデルと見た方がより正確だろう。
Appleが他社に対して優位なのは、SoCの機能や性能、消費電力などの目標値が十分に定まった段階で、それを生かすことを前提に最終製品の機能を絞り込んで磨けるという点にある。SoCの基本設計に製品開発のノウハウや要求が盛り込まれ、その結果を反映したSoCが登場し、今まで培ってきた技術と組み合わせて製品開発を行う――このプロセスが同一企業内で完結しているため、開発プロセスがオーバーラップし、より早く最新技術をエンドユーザーに届けられることになる。
単体のSoCとして見た場合、M2チップは確かに「Tock」に相当するSoCかもしれないが、それを採用する最終製品としては応用が進んだものになっているといえる。
Appleの「黄金パターン」は今後も続くだろうが……
単体のSoCとして見ると、M2チップのトランジスタ総数はM1チップの35%増しとなっている。新世代のNeural Engineの演算パフォーマンスは最大で40%向上した上、M1チップではM1 Proチップ以上に搭載されている「Media Engine」が標準搭載されていることもアドバンテージといえる。ユニファイドメモリの帯域幅と最大容量の増強も、処理パフォーマンスの改善に合わせた改善だと考えれば妥当な範囲だろう。
今後、M1チップと同じようにバリエーション展開するならば、目的に合わせてCPUコアとGPUコアを増強した「M2 Proチップ」「M2 Maxチップ」、果てはM2 Maxチップをファブリック技術で直結した「M2 Ultraチップ」が出てくるであろうことは想像に難くない。ただし、バリエーションの登場タイミングはTSMCの改良型5nmプロセス「N4Pプロセス」の成熟度合いに左右されそうだ。
端的にいうと、歩留まりが改善し、より大きな面積のダイを用いたチップを経済的に作れるようになればM2チップファミリーはどんどん展開されることになるだろう。
一方、TSMCでは現在、3nmプロセス「N3プロセス」の立ちあげに向けた準備が大詰めを迎えているといわれる。恐らく、Appleの新しいAチップはいち早くこのプロセスを採用することになるだろう。新しいAチップファミリーの開発成果は、間違いなく次のMチップファミリーに反映され、新しいMacをより進んだ存在に進化させるだろう。
ただし、この“黄金パターン”は、より大容量の処理が求められたり、内蔵GPUだけでは力不足だったりする用途で使われる「Mac Pro」にとっても最適解かと言われると疑問である。Appleは2022年内にもAppleシリコンを使ったMac Proをリリースし、Appleシリコンへの1本化を宣言することになると思われる。その時にどんな“手駒”を使うのかは、現時点では謎に満ちた状態となっている。
関連記事
- 「連係カメラ」でiPhoneとMacの配信画質が格段にアップ! Webカメラとの決定的な違い
Appleが「WWDC22」で発表した、iPhoneとMacを使った「連係カメラ」機能は、思った以上にビデオ会議や配信などで役立ちそうだ。 - 新「MacBook Air」や「M2チップ」だけじゃない Appleが3年ぶりに世界中の開発者を集めて語った未来
抽選制ながらも約3年ぶり本社に開発者を招待して行われたAppleの「Worldwide Developer Conference 2022(WWDC22)」。今回は「Apple M2チップ」と、同チップを搭載する新しい「MacBook Air」「MacBook Pro(13インチ)」といったハードウェアの新製品も発表された。発表内容を見てみると、おぼろげながらもAppleが描く未来図が浮かんでくる。 - 「M1 Ultra」という唯一無二の超高性能チップをAppleが生み出せた理由
M1 Maxで最大と思われていたAppleの独自チップだが、それを2つ連結させた「M1 Ultra」が登場した。半導体設計、OSと開発ツール、エンドユーザー製品の企画開発、その全てを束ねるAppleだからこそ生み出せた唯一無二のチップだ。 - 「iPadOS」で今度こそ“iPadがモバイルPC代わり”になるか PCユーザー視点からβ版を試して分かったこと
2019年秋のリリースに向け、「iPadOS」のパブリックβが登場。仕事ではタブレットではなくパソコンを使い続けてきた筆者の視点から、「12.9インチiPad Pro」にiPadOSのβ版をインストールし、ノートパソコン代わりに使ってみたインプレッションをお届けする。 - 2015年にPCはどう変わるか?――Intelプラットフォームの進化から考える
PCの進化において2014年は大きなアップデートに乏しく、比較的落ち着いた1年だった。しかし2015年はWindows 10の発売に加えて、プロセッサの大型アップデートも続く予定で、大きな変化が期待できそうだ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.