「メタバース」は新しい価値観を根付かせるか? 2023年(とその先)を“夢想”してみよう:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/5 ページ)
最近「メタバース」という言葉をよく聞くが、実は見方次第では「三度目の正直」的なブームともいえる。技術の進歩と社会の変化もある中で、この三度目の正直はようやく花開くのだろうか……? メタバースを切り口に、2023年とその先のテクノロジーについて“夢想”してみようと思う。
成否の分岐点は「オシゴトに使える」ところまで行けるかどうか
先述のSecond Lifeは、現在もサービスが続いている。しかし、結局のところ「Facebook」を始めとするSNSの台頭によって傍らに押しやられてしまった。スマートフォンで気軽に参加できるFacebookと比べると、Second Lifeの参加要件はあまりにもハードルが高い。そのハードルゆえに両者は異なるように見えるが、実は「やれること」は似ているものだ。
何だかんだでSecond Lifeを傍流に押しやったFacebookだが、運営会社としてのFacebookは2021年10月28日に社名を「Meta(メタ)」に変更した。察しの通り、新社名はメタバースを意識したもので、Second Lifeが先に取り組んだメタバース産業への取り組みを強めたことが興味深いところである。彼らは結局、人が集まる場所に生まれる価値に可能性を見ているのだと思う。
サービスとしてのFacebookを使うと、人が距離や時間を乗り越えて生活シーンを共有し、離れているのに身近さを感じられる。そのことと同様に、メタバースによってコミュニケーションの質が高まり、そこに新しい価値が生まれると感じたがゆえの社名変更(とメタバースへの注力)といってもいいだろう。
ただし、メタバースは参加するハードルも高いが、そこに心地よい空間を作ることも難しい。テキストと写真、動画などで構成される情報粒度の“粗い”コミュニケーションとは異なる。
では「メタバースの質を高めることはできるか?」といえば、できはする。ただし、取るべき技術的な方向性は明快だが、経済合理性を超えたコストの投下が必要となるだろう。これが、Second Lifeが超えられなかった壁である。
Second Lifeが始まった当時と比べれば、求められるコストははるかに下がった。VRゴーグルとコントローラーさえあれば、手軽にメタバース世界へとダイブできるようになった。しかし、あのゴーグルをかぶることを「手軽」と感じるのは、ごく一部の人だけだろう。快適性を高めるには、さらなるコストが掛かるため、ビジネス向けはさておき、コンシューマーにも広がるかどうかは微妙なところだと思う。
そのような観点では、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が2月22日に発売する予定の「PlayStation VR2」と、そのペアリング相手となる「PlayStation 5」がコンシューマーにどれだけ受け入れられるかに注目が集まる。PlayStation VR2が一定の成功を収めれば、メタバースへの接点を持つ人が大幅に増えるからだ。
とはいえ、ゲームを起点とするメタバースは、そもそも「Fortnite(フォートナイト)を始めとするゲーム内コミュニティーの成長が、メタバースのある側面を切り出したものとも捉えられる。そう考えると、「現状には大きな変化を与えない」という見方も成り立つ。
SIEが2月22日に発売する予定のPlayStation VR2。先代の「PlayStation VR」と比べると解像度は4倍となり、最大で120fpsの表示にも対応するため、従来よりも没入感の高いVRコンテンツを楽しめるようになる
「では何がメタバース普及の“鍵”になるの?」という意味で一番注目したいポイントは、「メタバースは“オシゴト”に使えるのか」という点にある。
最近の話でいうと、企業向けコンサルティング大手のAccenture(アクセンチュア)がMetaのVRゴーグル「Quest 2」を2年間で約6万台導入したことで話題を集めた(参考リンク)。物理的なオフィスを超える利点を持つ、仕事環境としてのメタバースは、既に3D CADやグラフィックスツールを使った共同作業(コラボレーション)では極めて実用的なレベルとなっている。
2023年、メタバースが整えるべき「オフィス環境」の1つとして捉えられるようになれば、物理的なオフィスを維持するための不動産/設備への投資をメタバースへの投資に振り替えるという動きも出てくるかもしれない。特に、新型コロナウイルスの感染を避けるべく、出勤率を抑えてきた企業では顕著にメタバースシフトが起こる可能性もある。
そうした方向に流れ始めると、メタバース関連への投資は一気に活発になっていく。
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