メガバンク提供の情報管理サービス「SMBCデジタルセーフティボックス」が解決する悩み事:古田雄介のデステック探訪(2/2 ページ)
今の時代は、IDやパスワードなどのもろもろを死後のことまで考えてメガバンクに預けることもできる。三井住友銀行が「SMBCデジタルセーフティボックス」の本格提供を始めて1年。どんな人にどのように生かされているのか。その実情をのぞいた。
よく使われているのは、資金・支払い・パスワード
利用者の傾向や使われ方の実態を尋ねた。
属性でみると性差はほぼなく、利用者は全国にばらけているそうだ。所有している資産にも幅があり、公正証書遺言を用意した上で補助ツールとして利用するケースから、財産の分配よりもいざというときの手続きで周囲に苦労させないために加入したというケースまでさまざまだ。年代は60〜70代が中心で、前後の世代に裾野が広く下りているイメージだという。
サービス内の利用率をみると、最も多く使われているのは「預貯金」や「保険」「有価証券」といった資産を管理する項目だ。そこに続いて「公共料金・カード等」と「ID・パスワード」が並ぶ。
「何が書かれているかは我々も閲覧できない仕組みですが、アクセス数で判断すると資産や支払いなどに直接関係するものが中心といえます。それ以外ではID・パスワードの項目が目立っていますね。店舗窓口で対応させていただく際も『管理に困っている』という声をよくいただきます。現役世代だけでなく、シニアの方も気にされている方が多い印象です」(三井住友銀行 同サービス担当 藤川徹也氏)
逆に、「医療」や「介護」、「葬儀」といった項目は総じてアクセス数が少ないそうだ。
そこから見えてくるのは、自分のために重要な情報を一元管理したいという現役中高年の利用者像だ。資産や契約、よく使うサービスや機器のパスワードを口座がある銀行の公式サービスでひとまとめにして管理にしておきたい。ただ、死後や病後のことまで備えるモチベーションまでは特段持っているわけではない。
やろうと思えば一元管理は一人でできる。けれど、普段使っている銀行に預けておけば、自分に万が一のことがあってもそのままの状態で誰も困らせないで済む。そこに月額料金を払おうと考える(あるいはライフサポートサービスに加入しようと考える)層が60〜70代を中心に広がっている――ということなのかもしれない。
見据えるのは世代のバトンタッチ
利用者数の伸びについて、藤川氏は「率直に申し上げて、まだまだだと考えています」という。現在はこういったサービスの認知を広げる段階であり、何年もかけて世の中に浸透させていくイメージで活動している。
「この種のサービスが広く浸透するには、世代間で繋がっていく実績を重ねることが重要だと考えています。親の情報の受取人になって助かったという人が、今度は自分の持ち物を考えてお子さまを受取人に設定するといったつながりですね。そう考えると目先でいえば20年先くらい、2040年頃を見据えることになります」(三井住友銀行 同サービス担当グループ長 宇山直樹氏)
2040年頃といえば、日本人の年間死亡者数が168万人近くでピークを迎えると推計されている時期だ(国立社会保障・人口問題研究所「平成29年 日本の将来推計人口」より)。高齢者率も2022年から6ポイント以上アップして35%を超えており、入院や相続などの手続きで周囲がかけられる労力も、今よりずっと少なくなっている可能性が高い。その頃にこの種のサービスが浸透していれば、多くの人の救いになるのは間違いないだろう。
同サービスも長期的な提供を見据えて少しずつアップデートを検討しているという。直近では、「メッセージ」で「動画や音声だけでなく、WordやExcelなどのファイルもアップロードできるようにしてほしい」や「交遊録や連絡先もまとめたい」といった要望を受けているとか。
そうした要望がいつどのような形で反映されるのか。長い目でみて追いかけていきたい。
関連記事
- 死後に困らない&困らせないアレコレをスマートに託せる「lastmessage」
自分が死んでしまった際にメッセージを発信したり、抹消したいIDを消したりといったことを託せるサービスが増えている。しかし、利用者との約束を果たさないまま姿を消すサービスも多い。2020年3月に提供を始めた「lastmessage」はどうなのだろうか? - 自分にとっての「終活のポイント」を診断できる「はなまる手帳」が社会問題の解決をゴールにした理由
家族の介護やお墓、実家の不動産の扱いといった将来考えなければならない問題を、少しのインプット作業で自動診断してくれる。そんな「はなまる手帳」が立ち上がったのはコロナ禍中のことだった。 - フリーソフト「死後の世界」が19年以上も現役であり続ける理由
前回のログインから一定時間が過ぎたら、あるいは期日指定で特定のフォルダーが削除できる「死後の世界」。Version 1.00が完成して以来、19年以上も提供を続けている。息の長いこのフリーソフトはどのように作られ、管理されてきたのだろうか。 - コロナ禍はデジタル終活にどう作用するのか――「第4回 デジタル遺品を考えるシンポジウム」レポート
もし自分が突然この世から去った場合、スマートフォンやタブレット、PCの中身はどうなるのか。残された人たちはどうすればいいのか。今何ができるのか、何をしなければならないのかを考えるシンポジウムがオンラインで開かれた。その模様を振り返る。 - そのスマホ、形見になる? 供養される? 第3回「デジタル遺品を考えるシンポジウム」レポート
故人のデジタルデータはどう扱うべきだろうか。 - スマホのデータを残して死ねますか? 「第2回デジタル遺品を考えるシンポジウム」レポート
デジタル遺品依頼の7割はスマートフォンが対象――聞いたことがあってもイマイチ実態がつかめない「デジタル遺品」。そのガイドラインを作ろうというシンポジウムが開かれた。語られた現状は意外? 想定内?
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.