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「AIで仕事を失う」は単に慣れていないだけ AIのローカル化にHPがこだわる理由HP Amplify Conference 2025(1/2 ページ)

HPの年次パートナーか言い「HP Amplify」が2025年も開催された。今回は“あえて”米テネシー州ナッシュビルで開催された本会議は、「IT業界に起こりつつある大きな変化に思索を巡らせて、議論を行う場を提供したい」という意図で行われているという。その「大きな変化」とは何なのだろうか。

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 3月18日から19日(米国中部時間)にかけて、HPの年次パートナー会議「HP Amplify Conference 2025」が開催された。

 今回の開催地である米テネシー州ナッシュビルは、カントリーミュージックの“聖地”としても知られる。多くのカンファレンス参加者はもちろん、HPの幹部でさえ初めて訪れたという人が多いと思われる(かくいう筆者も初訪問だった)。「なぜそんなところで?」というところだが、参加者にリラックスしてもらいつつ、IT業界に起こりつつある大きな変化に思索を巡らせて、議論を行う場を提供したいという意図もあったようだ。

 米ネバダ州ラスベガスで開催された前回(2024年)のHP Amplify Conferenceは、「AIとPCの世界で何が起こっていて、どのようなビジネスチャンスがあり、これらをいかに活用するか」ということに主眼が置かれていた。しかし時の移り変わりは早く、企業やITワーカーにとってAIは“当たり前”の存在になりつつある

 HPは2025年2月に2025年度第1四半期決算を発表したが、AIをビジネスの主軸に掲げたことが奏功してか、3四半期連続の売上成長を果たしている。AI浸透の恩恵を受けた格好だが、パートナーに感謝を伝えると共に、「これまでの1年間」を振り返り、「これからの1年間」の変化の波をどう乗り越えるのか――これが、2025年のHP Amplify Conferenceのテーマだった。

ナッシュビルの町並み
カントリーミュージックの聖地として知られるナッシュビルは「聖パトリックの祝日」の直後ということもあり、多くの人々でにぎわっていた

HPの目指す「AI」とは?

 基調講演に登壇したHPのエンリケ・ロレスCEOは、テクノロジー方面における自社の過去1年間の取り組みについて述べ、今回のイベントのタイミングに合わせて発表されたものも含め、全てのPCラインアップにおいてAI対応が進んだことに触れた。

 他の大手PCメーカーとの大きな違いとして、HPはプリンタ事業を抱えていることが特徴的だが、同社はこの分野にもAIを取り込んでいる。そのことを意識して、ロレスCEOは「世界で初めて、印刷分野でのAIについて語った企業」だとも述べている。2024年のイベントで発表した「Workforce Experience Platform(WXP)」がユーザーにさらなる付加価値を提供するためのツールとなるともした。

ロペスCEO
HPのエンリケ・ロレスCEOは、冒頭に「(Amplifyは)単なるビジネスイベントではなく“同窓会”として捉え、個人レベルで(いろいろな人と)再会して一緒にビジネスを考える場としてほしいし、HPとしてもそれを大事にしたい」と述べている

 2024年のイベントでは、HPが「技術革新に向けて多額の投資を行っていく」旨を宣言していたが、その成果の1つとして、2024年4月に発表されたF1(Formula 1)におけるFerrariとの複数年スポンサーシップ契約だ。

 近年、「技術アピール」と「ブレンド認知向上」を目的にF1チームへのスポンサードを発表するテクノロジー企業は珍しくない。この今回の取り組みについて、ロレスCEOは次のように説明している。

 HPは、F1というスポーツとの関わりにおいて3つのポイントがある。1つ目は、F1が世界のほぼ全ての国で行われる、数少ないグローバルスポーツの1つであること、2つ目はほぼ1年を通じて開催されること、そして重要な3つ目はF1とテクノロジーの関係性にある

 F1の世界では“パフォーマンス”が極めて重要で、“1ミリ秒”の差が勝負となる、非常に特殊なスポーツだ。HPの技術が勝敗に大きな影響を与える絶好の機会だと考える。

 そして重要なのが、コンピュータのみならずHPのプリンタ事業が大きな役割を果たしていることだ。例えば先週、(Ferrariチームの)新車のカバーに当社が作成したラテックスのプリントスクリーンを採用したが、HPの印刷技術を使用することで車両の表面がより滑らかになり、コース1周当たり数ミリ秒の差を縮められる効果がああったと判明している。

 つまり、HPの技術がコンピュータとプリントの両面で大きく貢献しているということだ。

Ferrariのマシン
会場の一角には、FerrariのF1マシンが展示されていた

 過去1年間で、IT業界自体のトレンドはどうなったか――ロレスCEOが顧客との対話の中で感じた変化の1つは、AIは「ビジネスチャンス」ではなく、既にそれを使ってビジネスがどう効率化したかなど、「その先の話題」へと進んでいることだという。

 実際、技術面だけを見てもAIのモデルはより複雑になり、高性能になっただけでなく、よりシンプルかつ直接的な形で顧客に価値を提供できるようになりつつある。

 そして重要なのは、この変化の中でHPがAIに対してどのようなスタンスを持っているかである。ロレスCEOは「私たちはクラウドでAIを推進することに注力しているわけではない。お客さま自身が(ローカルで)AIモデルを実行できるよう、PCポートフォリオの中で大規模言語モデル(LLM)を実行できるような「エッジAI」を持ち込むことに重点を置いている」と述べる。

 エッジAIのメリットは「低コスト」「高速性」、そして「プライバシーへの懸念を払拭しつつ、セキュリティを高められる」という3点にある。この中で起きる変化として重要なポイントとして、ロレスCEOが指摘するのがグローバル化されたAIモデルがローカライズされていく傾向だ。

 同氏は工場での製品製造を例に、当初は1カ所で集中生産された製品が世界中へと拡散していたものが、やがては地域生産になり、最終的には特定の地域のニーズに重点を置いた“地域設計”が行われるようになっていくと考えているという。これに対応すべく、HPでは3年以上前からサプライチェーンの多様化を進め、より競争力の高いビジネスを構築しつつあると述べている。

 ローカルの末端まで最適なAIモデルを提供していくことが目指す方向性の1つとなるが、そのためにLLMを実行できるようなAI PCを提供しつつ、会議システムを含む周辺のスマートデバイスとの接続性を強化し、それを管理するための適切なツールを提供することが重要だとロレスCEOは力説する。

 そして最後のステップとして、すべての企業が汎用(はんよう)のLLMのみならず、個別のアプリや用途に最適化されたモデルを活用できるように、HPが関連ツールを開発し、提供していくのだという。その端的な例が「HP AI Studio」だが、こうしたAIの開発/実行環境を用意することが、HPの使命ということになる。

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