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どの機能も実装してほしい――「Adobe MAX 2025」で披露されたAI機能が見せる“近未来”本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/4 ページ)

Adobeの年次イベント「Adobe MAX」で一番人気のセッションが、研究中/開発中の機能を披露する「Sneaks」だ。ここで紹介された機能をかいつまんで紹介しよう。

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 Adobeは10月29日から30日(米国太平洋夏時間)にかけて、米ロサンゼルスにおいて世界中のクリエイターに向けて最新技術や機能、クリエイティブノウハウを共有する「Adobe MAX 2025」を開催した。

 このイベントで特に人気を集めるのが、2日目(2025年は10月30日)に開催される「Sneaks」というセッションだ。Sneaksは日本語にすると「こっそりと」あるいは「忍び込む」という意味の単語で、その通りにAdobeの開発者が製品に実装されていない(開発中または実装検討中の)機能を“こっそりと”見せてくれる。エンターテインメントを重視した演出だが、観客の反応によって製品への実装が決定することもあるので、見逃す訳には行かないという面もある。

 例えば、今ではPhotoshopなどで当たり前となった「生成塗りつぶし」、Illustratorのβ版でテストが進んでいる「ターンテーブル」、Photoshopのβ版にある「調和」などは、Sneaksで初披露れた機能だ。

 ステージのゲストにはコメディアンで俳優のジェシカ・ウィリアムズさんが呼ばれ、「気に入ったものがあれば大きな拍手を。そしてSNSに投稿して!」と観客に呼びかけていた。

 今回は近未来を垣間見る10のプロジェクトが登場したが、そのうちのいくつかは2026年には使うことができるかもしれない。この記事では、全てのプロジェクトを紹介していきたい。

コンベンションセンター
Adobe MAX 2025の会場となった「Los Angeles Convention Center

Project Motion Map:静止画に命を吹き込むAI

 Sneaksの1番手を飾ったのは、Illustrator向けの「Project Motion Map」だ。

 最初に画面に表示されたのは、シンプルなハンバーガーのイラストレーション。可愛らしいが、動きのない“静止画”だ。そこに「目を瞬かせて」という簡単な指示を入力すると、目の部分がアニメーションする。そして「テキストを回転させて」と指示を追加すると、テキストロゴが回転を始める

 だが、これだけでは終わらない。「Stacking Effect(エフェクトを積み重ねて)」とプロンプトを入力すると、AIがハンバーガーのレイヤー(層)構造を理解し、バンズ、パティ、レタス、チーズといった各パーツが下から順に積み重なっていくアニメーションを自動生成した。

Project Motion Map
Project Motion Map

 さらにアプリ上の「Reveal Code(コードを披露する)」ボタンをクリックすると、AIがイラストのレイヤーを分析し、それぞれをどのように動かすべきかアニメーションコンセプトを生成し、各レイヤーにタイミングを割り当てて、実際にアニメーションさせるためのコードを生成してくれる。バリエーションはいくつか同時に生成されるので、クリエイターは好みのものを選択可能だ。

 自動アニメーション機能は、ドローオブジェクトにコメントをつけておき「Automated」ボタンを押すとAIが作品全体を分析し、どの要素をどのようにアニメーションさせるべきかを自律的に判断する。上のバーガーロゴ内の”目”にバイクを追いかけるように指示し、その下にデリバリーするバイクを配置して走り去るようプロンプトで指示。自動アニメーションさせると、目がバイクとハンバーガーを追いかけるアニメーションが生成された。

 さらに、思考能力もある。チェスボードのデモンストレーションでは、ジェシカさんが「あと4手で終わらせて」とリクエストすると、そのプロンプトに従ってAIがチェスのルールに沿ってコマを動かし、チェックメイトする完全なアニメーションを生成した。

Project Clean Take:時間をさかのぼり、感情を“変える”音声処理

 動画編集を担う「Adobe Premiere Pro」向けの「Project Clean Take」は、筆者が今すぐにでも欲しいと思ったテスト機能だ。

 動画の撮影が終わった後、発言内容や話し方を変更したい――そう思ったことは、誰にでもあるはずだ。結局のところ、そうしたい時のシンプルな解決策は再撮影だ。

 ところが、この機能は音声を後から編集できる。しかも、テキストでだ。文字起こしされたセリフの一部に対して、発音を修正できる

 今回のデモでは「at Adobe」という部分を語尾上がりで発音し、まるで質問しているような印象を受けた。しかし、その部分を選択して「Regenerate(再生成)」をクリックすると、同じ声かつ同じトーンで、しかし語尾を”下げた”自然な発音に変換された。前後の文脈を考えて、話し方のトーンを整えたのだ。

 さらに「fifth year(5年目)」と言った部分を「fourth year(4年目)」にテキスト編集し、「Replace Spoken Word(単語を置き換え)」すると、音声が自然に置き換わり、前後の文脈ともシームレスにつながった。

Project Clean Take
Project Clean Take

 さらに、「人の声」「環境音」「効果音」といった具合に音声を音源の属性ごとに“分離”して、異なる音声トラックに分割する機能も備えている。

 音声の背景で跳ね橋(可動橋の一種)が開く際の大きなベルの音が入った映像を使ったデモでは、ベルの音をタイムライン上で「効果音トラック」として分離した結果、簡単にミュートできた。背景の人々の話し声や足音といった他の環境音は保持したまま、邪魔なベル音だけが消える。

 これだけでは終わらない。フィットネスジムでの撮影シーンでは、バーベルを落とす音を消せるのはベルの時と同じだ。しかし、ジムでBGMとして流れていた音楽は権利処理されていないものが混じっていた。

 もちろん、音楽だけを分離してミュートもできるが、「Find Similar(類似の検索)」機能を使うと、AIが「Adobe Stock」からよく似た曲を探し出し置き換えて、他の音の様子を分析して、その場で実際に流れていたかのような雰囲気でミックスしてくれる。

 会場を最も驚かせたのは、音声の情感を変更する機能だ。感情のない退屈そうなナレーションを、「confident(自信に満ちた)」に変更すると、まるで大自然を紹介するのナレーションのようになり、「whisper(ささやき)」に変更すると、まるで耳元で囁くような語り口になる。

 再収録なしで、編集だけで作品の雰囲気を劇的に変更できるだけでなく、これなら素人の語り口調でも、プロっぽく仕上げられるだろう。

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