屋内基地局で子どもの位置を把握――ドコモ「迷子探しサービス」の実力は:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
端から端まで、約1.5キロ――。埼玉県越谷市の「イオンレイクタウン」は、“原宿・表参道一帯が1つのショッピングセンターの中にすっぽりと入ってしまう”くらい大規模なショッピングセンターとして知られる。この施設の“迷子探しサービス”に採用されたのが、屋内基地局設備を利用したドコモの位置情報検出技術だ。
IMCSと屋内アンテナを使って子どもの位置を把握
具体的なシステム内容を見てみよう。
ドコモの「迷子探しサービス」は、ドコモの屋内基地局であるIMCS(Inbuilding Mobile Communication System)を用いて位置を把握する。今回のサービスで使用している位置情報通知端末「CTG-001G」にはGPS受信機能も内蔵されているが、位置の把握で用いているのはIMCS情報だけだ。これはショッピングセンター施設内は基本的に屋内であり、GPS衛星からの信号が受けられないためだ。
「イオンレイクタウンの設置したIMCSは2基ですが、これを320のアンテナに分配して電波の送受信をしています。位置把握は、それぞれのアンテナからの電波の強度で割りだす仕組みです」(NTTドコモ 法人事業部 モバイルデザイン推進室の小田倉淳氏)
屋外でのGPS測位のように誤差10メートル前後といったピンポイントでは位置検出できないものの、おおよそ100×60メートルのブロックで子どもの居場所が把握できる。なお、技術的には30×30メートル程度まで位置把握範囲を小さくすることも可能だと小田倉氏は話す。
IMCSを用いた屋内測位は、屋内にGPS設備を設置する「IMES方式」よりも検出精度において劣る。しかし、「迷子探しは従業員が行うので、居場所が絞り込めるだけで十分に効果的」(御殿谷氏)だという。一方で、IMCSは大規模ショッピングセンターであれば必ず導入する設備であり、これを迷子探しサービスにも応用することで、実用十分な子どもの位置把握サービスを低コストで実現できる。
「もちろん、初めての事例なので苦労もありました。特に腐心したのが電波のチューニングで、立体的な各フロアーごとに正確に位置を検出するための調整に約2カ月の時間がかかりました」(小田倉氏)
イオンレイクタウンは3階建ての立体構造になっており、さらに開放感を演出するために、広々とした「吹き抜け」が多い。これは来客者にとっては気持ちのいい構造だが、フロアごとに位置を測位する場合には、難易度を跳ね上げる要因になる。各フロアに設置したアンテナからの電波が漏れて、検出時にフロアを間違える可能性があるからだ。
「吹き抜けがあっても誤検出しないように、各アンテナから発する電波の向きや出力はきめ細かく調整しました。このあたりのノウハウは、(エリア構築に強い)ドコモの優位性と言えるでしょう」(小田倉氏)
なお、イオンレイクタウンで導入した「迷子探しサービス」は、“施設の建設とIMCSのエリア設計・設置を同時に行う”ことで高い検出精度を実現している。そのため、既設のIMCS設備を用いて同様の精度を実現するのは困難だという。
全キャリアの端末から「迷子」の検索
迷子探しサービスの利用は、イオンレイクタウンの「kazeエリア」「moriエリア」のインフォメーションセンターで、迷子探しキットを借りて行う。ここで簡単な利用登録と検索パスワードの設定を行い、位置情報通知端末が入った水鳥型ポシェットを借りる。あとは子どもにポシェットを持たせればOKだ。
位置の把握は、親のケータイからいつでも行える。検索は携帯電話向けの専用サイトから行う仕組みになっており、ドコモはもちろん、auやソフトバンクモバイルなど他キャリアの携帯電話からも利用できる。迷子探しサービスの利用料は、位置検出も含めて無料。しかし、迷子探しサービスの携帯サイト接続時に、パケット料金は必要になる。
実際にサービスを試してみると、位置把握の検出精度は予想以上に高かった。むろん、GPSではないのでピンポイントでの位置測位はできないが、吹き抜け近くでも正確にフロアを検出しており、確実に迷子探しの範囲は狭まる。Flashで作成された施設マップも見やすい。
御殿谷氏によると、迷子探しサービスを利用する保護者は子どもの安全に対する意識が高く、「そもそも迷子にならないように気遣っている。そのため、まだ迷子探しサービスで『迷子が見つかった』という事例はない」とのこと。今後の課題は、より多くの家族連れに迷子探しサービスを利用してもらうことだという。
イオンレイクタウンでは200個の迷子探しキットを用意しているので、家族で訪れたときは利用してみるといいだろう。
著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)
IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを勤めている。
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