2009年、法人ビジネスはどう変わるのか――NTTドコモ 三木茂氏に聞く(前編)
コンシューマー市場が飽和する中、携帯電話市場の成長を下支えしているのが法人市場だ。しかし、これまで堅調な伸びを見せていたこの市場にも世界同時不況の影響が現れ始めているという。逆風が吹き荒れる2009年、法人向け市場とビジネスはどうなるのか。ドコモの法人部門を率いる三木茂氏に聞いた。
この1年、携帯電話市場の成長を下支えし、時に牽引してきたのが「法人市場」だ。法人市場は当初、音声定額やセキュリティ強化の観点から電話・携帯メール需要で火が付いたが、昨今ではデータ通信需要も増加。従来型携帯電話におけるデータ通信サービスの利用増はもちろんのこと、スマートフォンやPC向けデータ通信サービス、通信モジュール需要なども成長してきている。
しかし、その一方、2008年のサブプライムショックによる金融危機の影響で、実体経済も深刻な景気縮退に陥っている。順調に成長を遂げてきた法人市場にも、逆風が吹き始めていた。
そして2009年、法人向けの市場とビジネスはどうなるのか。NTTドコモ 法人ビジネス戦略部長の三木茂氏に話を聞いた。
景況の悪化で、法人市場の伸びに逆風
―― 2008年度は経済環境や市場環境の変化が大きい1年となりました。法人市場の観点から、この1年を総括してください。
三木氏 2008年度は後半からサブプライム問題やリーマンショックの影響が出てきています。特に法人市場は(コンシューマー市場よりも)色濃くその影響がでてきていると言えます。
携帯電話ビジネスは(内需産業なので)不況に強いという特性が本来はあるのですけれども、法人市場になりますと、他産業の浮沈の影響を受けてしまいます。
―― 携帯電話産業は90年代の『失われた10年』に産声をあげて大きく成長し、2000年前後のITバブル崩壊の時にもキャリアの成長に翳りは見られませんでした。当時はコンシューマー市場の新規需要が成長を牽引していたので、景況悪化の直撃を避けられたという事情があります。
三木氏 そうです。直近の状況で見ますと、法人契約の減少は他キャリアへの(MNPによる)流出ではなく、純粋な“解約”という傾向が見られます。つまり顧客企業が業務を縮小したり、利用回線数を抑えることでコスト削減を図っているのです。法人市場全体で見ても、現在の状況が大変きびしいものであることは確かです。
この傾向は昨年11月頃から顕著になり、今年に入っても好転する気配はまだありません。
―― ここ数年、ドコモの純増数を下支えしていたのが『法人市場の新規契約』だったわけですが、そこに逆風が吹いている、と。
三木氏 ええ。しかし、昨年後半からコンシューマー市場でドコモの競争力が回復して流出が減少し、新規契約が獲得できています。ドコモ全体で見ますと、法人市場の環境悪化をコンシューマー市場が補う形でバランスが取れました。
BlackBerryが持つ法人市場での優位性
―― ドコモでは以前から、法人市場で回線契約数の上積みだけを求めるのではなく、ソリューションを積極的に提供していくスタンスを取っていました。この分野の状況はいかがでしょうか。
三木氏 近況で見ますと、ここでも市場環境悪化の影響が出ています。多くのプロジェクトが延期や一時凍結になってしまった。法人ビジネスではネットワーク(回線)収入がまだ大半なのですが、その中で我々はソリューション収入であるシステムの売り上げをこれまで順調に伸ばしてきました。しかし、昨年後半から、このシステム売り上げの伸びがピタッと止まってしまった。
―― 景況の先行きが不透明であるため、各産業・各企業における設備投資が凍結されている。この影響が、モバイルソリューション分野でも現れているわけですね。
三木氏 はっきりと現れています。
―― その打開策はあるのでしょうか。
三木氏 打開策というと難しいのですが、法人の新規契約で見ますとBlackBerryが伸びています。新たに「BlackBerry Bold」 ※1 を投入しましたが、これは確実に成長しており、(市場全体の逆風の中で)需要を牽引しています。
※1 充電中に発熱する場合があることが確認されたため、2009年3月2日現在、販売を一時見合わせている。
この需要で注目なのが、既存の(法人契約の)携帯電話からBlackBerryに乗り換えるという人は少ないことです。BlackBerryの契約は大半が新規契約であり、「2台目」としてお使いいただいている。法人におけるスマートフォンは、2台目市場の創出効果が極めて高いという手応えを感じています。
―― ドコモはBlackBerryシリーズを専売しているわけですが、これは法人市場での競争で優位性につながっていますか。
三木氏 優位性になっていますね。BlackBerryが法人市場におけるスマートフォンの方向性を示しているのは間違いない。(法人市場での)数量的にも他のスマートフォンよりも多く出ています。
―― 私もBlackBerry Boldを試しましたが、ハードウェアとソフトウェア、そしてサービスがしっかりと一体化していて使いやすいですね。スマートフォン、さらにはビジネスマシンとして、とても完成度が高いと感じました。
三木氏 BlackBerryはソリューションが明快なんです。法人のお客様が求めるのはソリューションであって、特定のプロダクトやプラットフォームではありません。その点でBlackBerryは、“ビジネスの意志決定プロセスを円滑にする”というソリューションがはっきりしていて、その上で高い完成度を実現しているので(法人市場で)受け入れられやすいのです。
また、もうひとつBlackBerryが他のスマートフォンよりも優れているのが、セキュリティ性能も含めた(ビジネスマシンとしての)品質ですね。業務で使用するツールですから、セキュリティ性能や安定性が“パソコン並み”では困る。法人市場向けのスマートフォンでは、そういった品質の高さが求められるのです。
―― 自由度や汎用性も大事だけれども、それ以上に重要なのが「品質」である、と。
三木氏 まさに品質です。我々ドコモとしては、BlackBerryに限らず、プラットフォームは何でもいい。Windows MobileやAndroidにも(ドコモとしては)着手しているわけですが、法人市場向けのソリューションとしてしっかりと訴求していくには、ビジネスシーンに耐えうるだけの品質がなければなりません。BlackBerryはその点で優れているということなのです。
こうしたクオリティの追求はお客様の利益を考えれば当然のことでありますが、我々キャリアにもメリットがあります。
―― と言いますと?
三木氏 法人ビジネスはお客様に対する直接販売が大半で、それぞれの顧客にアカウントマネージャーがつきます。ここで品質の低いプロダクトやソリューションを納入し、もしトラブルが起きてしまうと、そのサポートやケアに多大な人的リソースが必要となってしまうのです。また、そこで「ドコモに対する信頼」が失われるデメリットは計り知れないものがある。
一方、当初から高い品質と安定性を持ち、実績のあるソリューションを納入しておけば、アカウントマネージャーは新たな顧客獲得ができます。また、ドコモにとって何よりも大切なお客様からの信頼が得られる。法人ビジネスにおいて我々が徹底的に品質を重視する背景には、このような理由もあるのです。
(後編に続く)
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