夏野氏とひろゆき氏が考えるインターネットの未来は:Interop Tokyo 2009
Interop Tokyo 2009の最終日、慶大特別招聘教授の夏野剛氏とニワンゴ取締役の西村博之が対談形式で講演。インターネットの未来について、政治との関係や今後のビジネスモデル、ニコニコ動画のトレンドといった幅広い切り口で論じた。
Interop Tokyo 2009の最終日となる6月12日、慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏とニワンゴ取締役の西村博之(ひろゆき)氏が「インターネットの未来像:ポストインターネット」と題した基調講演を行った。
携帯電話やインターネットの世界で有名な2人が講演するとあって、多くの一般観覧者が詰めかけたこの講演は、冗談交じりのトークに会場から笑い声が飛び交う和やかなムードで展開された。
最初の話題にはインターネットが政治に与える影響が上がり、夏野氏が米大統領選でのバラク・オバマ氏のインターネット活用に触れ、「オバマ現象が起こった」と説明。これまで政治のネット活用といえば公式サイトやブログが中心で、政治家自身が前面に出てくることはあまりなかったが、Twitterというネットツールを使って選挙戦を戦ったことが、オバマ氏の大きな勝因になったのではと分析した。
ひろゆき氏も「ネットの活用で勝利を収めた大統領としては、韓国の故・盧武鉉元大統領が最初だったのでは」と振り返り、政治にインターネットが活用され始めていることを示唆した。
またTwitterの特徴については「ブログなどでも政治家の意見などは読めるが、それを本人が書いているとはほとんどの人が思っていない。しかしTwitterだと、本人もしくは本人に限りなく近い人物でなければできない」と夏野氏。「政治と国民が、これまで以上に近い関係になったことが新しい流れ」という見方を示した。
日本の政治家のインターネット利用については、夏野氏がニコニコ動画の事例を挙げ「日本の政治家も、なぜかニコニコ生放送を使いまくっている。しかも面白い」話す。これにはひろゆき氏が「炎上とか知らないだけじゃないでしょうか」と独特の切り替えしを見せ、会場を沸かせた。
各政党のトップがずらりと顔を並べるニコニコ生放送。共産党の志位和夫委員長は、その名前からニコニコ動画や2ちゃんねるでは「C」と呼ばれ、一躍人気政治家となった経緯がある。政党でもこれを逆利用して、若年層の取り込みを目指している
旧態依然とした出版、テレビ業界のビジネスモデルを批判
続いて新聞や雑誌などのペーパーメディアについての考察に入ると、夏野氏が「ペーパーメディアは終わってる。なんで絶版の本をネットで(データとして)売ったらだめなのか。儲ける気がないんじゃないか」と痛烈に批判。ひろゆき氏も「絶版の本がアマゾンのマーケットプレイスで売っているんですが、もともと1000円程度の本が10万円もする」という実状を説明し、出版業界の旧態依然とした販売体制に不満を漏らした。
テレビメディアについてはひろゆき氏が「リアルタイムの情報を欲しがる人はネットに集まる」と分析。さらに「そうなるとテレビは生中継しか売りがなくなるが、生中継をメインにしたら視聴率が激減した。TBSで最近最高視聴率を獲得したのは水戸黄門の再放送だった」と、テレビというメディアが抱える問題の深さを指摘した。
また両氏は、ペーパーメディアと同じように、テレビメディアの考え方も古いと指摘。夏野氏は「テレビ局の人にオンデマンドと言っても理解してもらえない。テレビ局は『その場で見て欲しいんだ!』と強く主張してくるが、その理屈が理解できない」と批判する。ひろゆき氏も「選択肢が少ないうちはそれでもいいけれど、今は山ほどある選択肢の中から自分に合ったものを選ぶ時代。そんな時代に、“おしつけの理論”で来られても、誰も選ばない」と同意した。
一方、オンデマンドについては、夏野氏がアメリカの無料動画配信サイト「Hulu」(フールー)に言及。「すでに米国ではYouTubeの次に観られている。動画は完全無料で映画でもドラマでも何でもある。ただそこにある動画のすべてに広告がついているというだけ」と話すと、ひろゆき氏も「テレビのコンテンツが悪いわけじゃない」と述べ、問題はビジネスモデルにあると示唆した。
動画配信にかかる費用や収益をユーザーサイドに求めるのではなく広告主に求めるという方法は、インターネットのコンテンツプロバイダやISPなどには当たり前のビジネスモデルとなっているが、日本のテレビ業界などではこの考え方がまだまだ浸透していない
リアリティは生放送じゃないと伝わらない
講演はニコニコ動画の最近の動向に関する解説に入り、両氏は最近のトレンドとして「ユーザー生放送が大人気」だと説明する。面白いコンテンツを流しているユーザーを紹介しながら「ユーザー生放送こそインタラクティブ。コメントがつけばそこに(動画を配信している)ユーザーがリアルタイムで応える。それが無茶苦茶楽しい」と夏野氏が述べると「何か事件があるとそこでユーザー生放送が始まる。ユーザーが記者になっている」とひろゆき氏。「生放送は真実を伝える。それに対してテレビは切り取った情報。リアリティは生放送じゃないと伝わらない」と、両氏はインターネットを使った生放送の面白さをアピールした。
最後は日本のインターネットの現状や今後のあり方が議題に上がり、夏野氏は「日本はIT大先進国。海外のブロードバンド事情やモバイル環境に比べたら、日本(の進化)は異常ともいえるレベル」と持論を展開。「インターネット発祥の地はアメリカかもしれないが、今そこで流行っているコンテンツの多くが日本発祥のもの。ケータイもガラパゴスなどと言われているが、日本が突き抜けて高いレベルにあるだけ。日本はもっとコンテンツや技術を海外に輸出するべきだ」と熱弁を振るった。
日本が得意とするコンテンツについては、ブログやプロフなどを取り上げ、両氏は日本人が情報に対して非常に真摯に接していると分析。ひろゆき氏が「最後は結局コンテンツ。技術は高いのに世界に出さない。自己満足で終わっている」と語ると、夏野氏が「それってひろゆきじゃないか?」と皮肉り、会場の笑いを誘った。
「ITに関する日本の潜在能力は非常に高い。しかし日本人はメインカルチャーでなければ認めようとしない風潮がある。それがコンテンツをダメにしている」というのが、夏野氏とひろゆき氏の共通の考え。夏野氏が「個人ユーザーでの活動は活発になっている。大きな仕掛けをしている人ももっと頑張れ!」と、日本のテレビメディアやインターネットを動かす企業や業界に向けてエールを送った。
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