位置情報で広がるARサービス――クウジット末吉社長:ワイヤレスジャパン2009
クウジットの末吉隆彦社長が行ったワイヤレスジャパンの講演では、AR技術の説明や、ARと位置情報サービスとの親和性について語られた。
東京ビッグサイトで7月22日〜24日まで開催されたワイヤレスジャパン2009では、クウジット代表取締役社長の末吉隆彦氏が、AR技術の種類や位置情報システムを用いたARサービスの展開について講演を行った。
ARとは「Augmented Reality(拡張現実)」の略称で、ITを駆使して現実の環境に情報を加える技術を指す。近年ではiPhoneをはじめとするスマートフォン向けのARアプリケーションに注目が集まっているほか、ドコモが「直感検索・ナビ」を、auが「実空間透視ケータイ」を発表するなど、キャリアも積極的に取り組む姿勢を見せ始めた。現実空間とリンクした情報をリアルタイムに提供できるARは、広告のプラットフォームとしてもさまざまな可能性を持っており、その活用法に企業も興味を示している。
末吉氏は、これまでの主なAR技術を「マーカー型AR」と「マーカーレス型AR」の2つに分類して説明した。マーカー型ARは、特定の2次元マーカー上に3次元情報をオーバーレイさせることが可能で、代表的なものには1994年にソニーCSLが商品化した「CyberCode」や、SDKとして提供されている「ARToolkit」などがある。
マーカーレス型ARは比較的最近の技術であり、映像からリアルタイムに特定のポイントを割り出し、特殊なマーカーを用いることなく3次元情報を投影できる。2007年にオックスフォード大学のGeorg Klein氏らが発表した「PTAM」や、2008年に東大の暦本研究室が発表したシーン認識技術、同年に金村星日氏が発表した「SREngine」などがその代表例だという。
「拡張現実の展開はこれからピーク期に入るところではないか。今年に入り、ようやくARがビジネスの領域で語られるようになってきた」と末吉氏は語る。今年7月にAR関連のコンソーシアム「AR Commons」が発足したことにも触れ、「拡張空間におけるリテラシーを考える時期にきた」とも。AR技術の商用事例としては、2006年の「ルーヴル - DNP ミュージアムラボ」での展示作品へのアノテーションや、マーカー型ARを用いた電脳フィギュア「ARis」を挙げる。
また、ウェブサイトでの活用例として、Webカメラとマーカー型ARを使うBMW「Z4」のプロモーションサイト(http://www.bmw.co.uk/bmwuk/augmented_reality/homepage)や、映画「Transformers: Revenge of the Fallen」(邦題は「トランスフォーマー/リベンジ」)の特設サイト(http://www.weareautobots.com/ww/index.php)を紹介し、講演中に実演して見せた。
位置情報サービスとARの親和性
先に末吉氏が挙げた事例は、いずれも映像を解析して情報を付加する技術が採用されているが、ドコモの直感検索・ナビやauの実空間透視ケータイはGPSの位置情報を利用したARアプリケーションだ。技術として黎明(れいめい)期にあるARを、サービスとして啓蒙(けいもう)活動期に入った位置情報サービスと組み合わせることで、ビジネス的な展開も加速すると末吉氏は見ている。また、「ARでは現実空間をどうセンシングしていくのかがポイント。5W1H(いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように)を表現することが目標で、位置情報はそのために必要な要素」と、ARと位置情報サービスの相性の良さも強調した。
その上で、末吉氏はWi-Fiを使った位置情報システム「PlaceEngine」を紹介。PlaceEngineはケータイの電波が届かない場所でもユーザーの位置を特定できることに加え、高い位置測定精度を誇る。こうした点がARできめ細かな情報提供を行う際に力を発揮すると同氏は説明した。
クウジットは今後の取り組みとして、同社の位置情報技術を利用したARサービスをiPhoneやAndroidなどマルチデバイスに対応した形で提供することを検討しているという。また、CyberCodeなどのマーカー型ARサービスも、iPhoneやAndroid向けに提供する予定だ。マーカーレス型ARについても、「現在はPCでしか実現していないが、モバイルデバイスでも実現したい」と意気込み、実用化へ向けた研究が進んでいると語った。
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