競合他社との連携は“ARブラウザ”への第1歩――KDDI「実空間透視ケータイ」の未来:セカイカメラにとどまらない「セカイカメラZOOM」(2/2 ページ)
Webブラウザが不特定多数のサーバにアクセスできるように、ARコンテンツも相互運用性を持つべき――。そんなビジョンを掲げるKDDIのARプラットフォーム「実空間透視ケータイ」が、この夏、大きな動きを見せる。サービス関係者に、同社のAR事業戦略と今後の展開を聞いた。
そして、セカイカメラZOOMを語る上で重要なのが、KDDIと頓智ドットのサーバだけでなく、不特定多数のARデータベースにアクセスすることを想定している点だ。「不特定多数のサーバにアクセスできないとWebブラウザ的な役割を果たせません。ですので、CPさんがAR用のサーバを構築するためのSDKを公開し、レイヤーを切り替えるような感覚でさまざまなサーバにアクセスできる環境を整えます」(小林氏)。同氏によれば、オーサリングツールを使って手動でコンテンツを配置する静的なサーバに加え、動的な高機能サーバを構築するための仕様も公開する予定だという。同社はこうしたCP主導のARチャンネルを増やしてコンテンツの充実を図る考えで、幅広い企業からの参加を募っているという。
また、KDDIはこうした多くのARチャンネルを「EZwebでいうトップページのようなポータル画面」(小林氏)から選択できるようにする考えだ。開発版のアプリの画面には、アクセスできるチャンネル(ARデータベース)の一覧画面が設けられ、セカイカメラのAR空間だけでなく、これまで実空間透視ケータイで提供してきた観光情報などのAR空間が選択できるようになっていた。人気のあるARチャンネルが分かるランキング機能なども実装し、利便性を高めていくという。
トライアルを通じてビジネスモデルのあり方を検討
このようにARプラットフォームの構築に取り組むKDDIだが、収益化についてはどのような戦略を持っているのだろうか。同社がセカイカメラZOOMで取り組む試みの1つは、先述したKDDIエアタグサーバを使った広告コンテンツの配信だ。広告主に対して専用のエアタグ配置ツールを提供し、EZwebやPCサイトへのリンクを設定することで、自社サイトへの誘導が図れるようになっている。「ユーザーがセカイカメラZOOMからリンクを選択すれば、EZwebのサイトに飛ぶことができます。つまり、EZwebの課金システムを使ったECサービスなどの窓口として、エアタグが利用できるのです」(小林氏)。また、頓智ドットのセカイカメラからこれらの広告エアタグにアクセスした場合は、PCサイトに飛ぶようになるという。
広告の配信だけでなく、プラットフォーム利用料やユーザーに対する何らかのコンテンツ課金など、ARのマネタイズ手法はさまざまな可能性がある。サービス企画に関わるKDDIの伊藤盛氏は、利用者を増やすためにも「まずはプラットフォームを整備し、CPさんにコンテンツを出してもらえる環境を構築することが先決」と説明する。「プラットフォームの利用料という点では、CPさんもコンテンツをARに対応させるためにリソースを使いますので、成果報酬型などビジネスモデルに何らかしらの工夫が必要と感じています。現状で決まっていることは少なく、セカイカメラZOOMのトライアルを通じて、ビジネス的に成り立ちうるモデルを見極めていきたい」(伊藤氏)
位置情報サービスは、これまでIT分野があまりリーチしていなかった小規模な実店舗の広告メディアとしても注目されている。KDDIもこうした小規模店舗をターゲットに、地図サービス上で店情報をルート案内とセットで訴求する広告商品を発売した。そして実空間透視ケータイでも、こうした方向性は意識されていると小林氏は話す。「例えば、農家の方のお茶畑を通りかかった人がお茶畑にケータイをかざすと、そこで採れた茶葉が購入できるようなサービスを実現したい。それが広告なのかECなのかは分かりませんが、実空間上で出会ったものを“かざせば買える”というリテラシーを普及させたいと思っています。そのためにはコンテンツが充実していることが不可欠で、『商品が1つしかない』といった方でも参加できるようにする必要があると感じています」(小林氏)。
一方の伊藤氏は、KDDIが協業モデルで運営している「auショッピングモール」などの各種サービスとの連携も選択肢として検討していきたいと話す。また「au one」の広告事業を手掛けるmedibaと協力して広告を獲得していくようなシナリオも考えられるという。
KDDIのAR事業、今後の課題と計画は?
こうした戦略の下、6月にサービスを開始するセカイカメラZOOMだが、開始までに解決すべき課題があるという。「セカイカメラに比べてセカイカメラZOOMが弱いのは、ユーザーがアプリに触れる“導線”だと思っています。現状では待受け画面上に起動アイコンがあるわけでもなく、何回かキーを押さないとアプリを使えない。いろいろと試行錯誤の最中ですが、別のメディアからの誘導など、アプリを使いたくなるような手前の導線を工夫することに注力したいと考えています」(小林氏)。そのため、発表会で披露した開発版からさらにアプリの内容が変更される可能性もあるようだ。
また、6軸センサーを搭載した端末が少ないことも課題だ。現状では、セカイカメラZOOMの“かざした方角のエアタグが自動で表示される”機能を楽しめるのは、カシオの「G'zOne」シリーズなど一部の機種に限られる。今後、ケータイの6軸センサー搭載率がどう変化するのかは分からないが、実空間透視ケータイのプロジェクトでは太陽光を認識して方位を検出する技術なども研究されており、こうした機能が将来的に実装される可能性はあるという。また、位置の把握という点では、GPSでは正確に把握できない“ラスト10メートル”の距離をどう検出するかも「なんとか解決したい課題」だという。これには画像認識をはじめ、さまざまな手法が検討されている。
また、サービス開始後はCPなどのパートナーの要望を聞きながらアプリの機能をバージョンアップしていきたいと小林氏は意気込む。「SDKを公開するだけでなく、パートナーと一緒に魅力的なコンテンツを作っていきたいと考えています。例えばですが、実空間透視ケータイを使った位置ゲーの提供など、SDKだけでは実現できない機能の要望にも積極的に応えていきたい」(小林氏)。また、小林氏によれば、セカイカメラZOOM以外のアプリケーションの提供も検討されているようで、“ブラウザ”としての役割を果たすセカイカメラZOOMとは違った体験を提供するアプリになる可能性があるという。
日本のケータイで、ARがどう受け入れられるのか――β版として提供されてきた実空間透視ケータイの真価が問われるのはこれからだ。単なる目新しさにとどまらないARの利便性や体験性を各社が模索している中、小林氏も「最初の5秒は目新しさで切り抜けられるが、その後の5分をいかに使ってもらえるようにするかが重要」と話す。通信キャリアならではの多彩なコンテンツやサービスとの連携を通して、KDDIならではの魅力的なAR空間を生み出せるかどうかが、大きな鍵になるだろう。
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