町の文房具屋から、年商30億円企業へ――山崎文栄堂を変えた“徹底ルール”:全社員がiPhoneを活用(2/2 ページ)
学校前の小さな文具店から、“30人で年商30億円”の優良企業へ――。その劇的な変革は、“基本ルールの徹底”によるものだった。社内ルールからITの活用、iPhoneの導入まで、“徹底してやる”姿勢が会社を変えたという。
同社の業務に貢献しているのが、「1日1人最低1つぶやき」という“徹底ルール”で利用しているTwitterだ。社員同士のみが閲覧できるよう非公開で活用しており、社員は出先で仕入れた情報やライバルの動向、気がついたことなどをiPhoneからTwitterでこまめに投稿。社員同士でリアルタイムな情報を共有し、業務に役立てている。
業務に直結したトピックにとどまらず、ごく日常会話的なつぶやきも活発に交わされているという。同社では山崎社長を含め大半が外回り業務を主体としているため、オフィスで日常会話をする機会に乏しく、それを補うのが、社内Twitter(とiPhone)というわけだ。
営業本部長の若狹謙治氏は、社内Twitterが人材の能力向上にも役立つと話す。
「今の社内Twitterは、新卒の社員も気軽に入ってこられるような雰囲気。ちょっとした質問なども、よく飛び出してくる。アスクルエージェント事業では、価格も納期も他のエージェントと全く同じであり、差別化のポイントにできるのは人材。その人材の能力向上にも社内Twitterが役に立つと考えている。さらに、今後はルールを決めた上で対外的にもTwitterを使っていく予定」
なお、山崎文栄堂ではiPhoneの個人的な利用も特に禁止していない。それは、山崎氏のこんな考え方によるものだ。
「基本的には遊びであったり、仕事とは直接関係しないようなコミュニケーションなどから入った方が、ツールを使いこなせるようになる。むしろ、くだらない使い方をしているような人の方が、成績が上がりやすかったりもする。ただし、仕事以外そんな暇があれば、だが(笑)」
iPhoneでサイボウズの予定を確認――サイボウズKUNAI
山崎氏はiPhone上でサイボウズ上の予定を確認できるアプリ「サイボウズKUNAI」を利用しており、サイボウズOfficeをモバイルで使う上で、これまでの不便さが解消されたと評価する。
「特に不便だったのはスケジュール。携帯電話でもサイボウズを使えるとはいうものの、あの小さな画面では全体を俯瞰できず、全て紙に打ち出して持ち歩いたこともある。PC上のOutlookを経由してiPhoneのスケジュールに転送するなどしていたが、それも手間がかかる。ちょっとした時間の無駄でも、繰り返せば大きな無駄になり、それを減らすのは重要なこと」(山崎氏)
iPhone版KUNAIは現状、スケジュール関連機能のみが提供されているが、山崎氏は決済承認への対応を期待しているという。
ポイント3:できない人にやらせる
サイボウズOfficeからiPhone、Twitterまで、さまざまなITツールを活用している山崎文栄堂だが、社員はわずか30人と少なく、運用管理の専任スタッフを置くのは難しい。そのため、サーバやアプリケーションの管理は、アウトソースを活用している。サイボウズ製品は外部のレンタルサーバ上で運用し、アプリケーションの設定は社員の1人に担当させている。
取材時、サイボウズの管理を担当していたのは、アスクル事業部の高橋祥子氏。肩書きから分かるように、通常業務との兼務でサイボウズへのユーザーの追加やグループ化などの管理作業を担当している。同氏は「社内にしっかりしたマニュアルがあるので対応できる」と話す。じつは、このマニュアルにも秘訣があった。
「むしろ『分かっていない人にやらせた方がいい』というのが社長の方針。仕事でやらなければならないから、分からないながらもしっかり調べてメモしていく。そのメモからマニュアルが作られ、担当者が変わるたびに受け継がれ、またメモが増えていく。そうするうちにマニュアルが充実したものになっていく」(若狹氏)。
同社はまた、ジョブローテーションを定期的に行い、仕事の固定化を防いでいる。採用担当は毎年、経理も2年で交替するという徹底ぶりだ。IT管理や採用、経理などの担当を定期的に交替させる背景には、社員をマルチタレントにしたいという山崎氏の考えがある。例えば現在の担当者が不在のときに何らかの問題が生じたとしても、過去の担当者がいれば迅速に対応できる。それはまた、「全員で徹底してやる」というポリシーにも通じる。
「同じ人が何年も継続して同じ役割を担当していれば、『自分の城』ができてしまい、そうなると社内で無理を通すようなことにもなりかねない。それを避けるには、“人に仕事がつかない”ようにする必要がある」(若狹氏)
顧客と接する“アナログな時間”を増やすためにITを活用
現在の山崎文栄堂は従業員約30人で、年間売上高は30億円超。アスクルエージェント事業では全国1500社の代理店の中で売上高7位という実績を達成しただけでなく、2010年春に開催されたアスクル営業キャンペーンで同社の社員2人が全国で1位と2位を獲得するなど、高い成績を誇る。そして自社で率先して取り組んでいる書類整理関連の事業も大きな柱に成長してきた。
山崎氏自身も、自社オフィスを整理術のショールームとして顧客を招いたり、書類整理セミナーを行ったりと多忙を極める。外出が多く、多忙なスケジュールの中で社長としての役割を果たすためには、使いやすいツールを選び、それを効率よく使いこなすためのノウハウが求められる。同社のIT活用はその途上にあり、今後、磨きがかかっていくことだろう。
「ITを活用する上で大事なのは、それによって“いかにアナログな部分を増やすか”。我々は顧客と接する“アナログな時間”を増やすために、ITを活用しているということです」(山崎氏)
関連記事
- 営業の意識改革をiPhoneで――光世証券に見るスマートフォン企業利用の姿
大阪・北浜に本社を構える光世証券は、「業務効率化」「生産性向上」といった視点よりも「営業担当者の意識改革」を期待し、iPhone導入を決めた。アプリの利用に制限を設けず、社員それぞれに使い方をゆだねてノウハウの共有を図った同社だが、その効果はいかなるものなのか。 - “100台のiPhone”で生保の営業をどこまで効率化できるか――AIGエジソン生命保険の試み
生保業界で初めて、iPhone 3GSによる営業支援システムの活用を開始したAIGエジソン生命保険。ワールドワイドの推奨端末がBlackBerryであるにもかかわらず業務用端末としてiPhoneを導入した同社は、この端末のどこを評価し、どんな効果に期待したのか。システム管理チームに聞いた。 - “550台のiPhone”は、教育をどう変えるのか――青山学院大学 社会情報学部の取り組み
学生と教員にiPhone 3Gを配布し、授業やキャンパスライフなどで活用している青山学院大学 社会情報学部。550台のiPhoneは実際の授業でどのように使われ、どんな形で生徒の学習をサポートしているのか。同学部で助教を務める伊藤一成氏に聞いた。 - 緊急時の医用画像をiPhoneで――救急医療の現場で活用する音羽病院
急患が運ばれたそのとき、専門医はすでに帰宅――。一刻を争うこんなケースで役立つ、iPhoneを活用した医用画像遠隔閲覧システムが注目を集めている。このシステムを使うことで、医師は自宅から一次処置の指示を迅速に下せるようになる。 - 防災訓練に130台のiPhone――現場リポートで活躍
災害時に各地のリアルな情報を伝える手段としてiPhoneを活用――こんな実証実験を明治大学の地域コミュニティシステム研究所が実施した。130台のiPhoneは、災害現場でどんな役割を担うのか。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.