先行する巨大アプリマーケットに勝てるか――WACの副社長に聞く、戦略とロードマップ:Mobile World Congress 2011(2/2 ページ)
Web標準の技術で開発でき、作ったアプリは海外通信キャリアのアプリマーケットを通じて広く提供できる――。こんなコンテンツ流通を実現するのがWACのサービスだ。先行するアプリマーケットに対する優位性や、今後の戦略について、副社長のクルーン氏に聞いた。
―― WACアプリケーションは現在、どのくらいリリースされていますか?
クルーン氏 1万2000以上のアプリケーションがあります。ゲーム、地図、位置情報ベースのサービス、SNSやIMなどが多く、既存のアプリストアと同じような内容です。
―― 有料アプリの課金はどのようなモデルとなるのでしょうか? また、広告展開に関するプランを教えてください。
クルーン氏 全体の仕組みとしては、開発者が自分のアプリケーションを提供したい市場を設定しておき、WAC対応のアプリストアを提供する通信オペレーターやメーカー(ストアオーナー)がここから選択します。有料アプリについては、売り上げの分配比率はストアのオーナーが設定し、開発者とシェアします。比率は業界標準の3(ストア)対7(開発者)が多いと聞いています。
有料アプリについては、WAC 3.0からアプリ内課金(サブスクリプションを含む)が可能になります。通信オペレーターが利用料と合わせて一括請求する課金方式は非常に便利で、ユーザーが求めている機能です。通信オペレーター課金が可能となれば、WACの魅力はさらに増すでしょう。
広告については、現在すでに、開発者はWACで既存の広告事業者を利用できます。今後、ターゲット広告の仕組みをWACが提供できればと思っていますが、現在の最優先課題ではありません。
先行するAppleやGoogleのマーケットに対するアドバンテージは
―― WACはAppleやGoogleのマーケットに対して、どのように対抗するのでしょうか。市場規模やApp Storeの実績、SDKからマーケットまでのステップが分かりやすいことから、現在、多くのモバイル開発者が最初にiOSをターゲットにするといわれています。開発者に対するWACの優位性を教えてください。
クルーン氏 まず、われわれの強みからお話しましょう。WACは標準技術を使っており、WACプラットフォームで使えるツールは「jQuery Mobile」などたくさんあります。HTML5開発者向けの優れたツールがあり、開発者はこれらのツールでもWAC向けアプリを開発できます。
AppleやGoogleはクローズドであり、彼ら自身がツールキットを作る必要があります。WACはオープンなプラットフォームなので、われわれもリファレンスSDKを公開してはいますが、外部でもHTML/WAC向けのツールが作成されています。今後はここで、技術革新が起こってくるでしょう。
実際のアプリ開発も容易で、Web向けにアプリを作成するのと同じです。開発者は、モバイル特有の機能(アクセロメーター、カメラ、アドレス帳、位置情報など)も利用できますが、HTML5だけでもWACアプリを作成できます。
AppleとGoogleは、たしかにモバイル業界を変えました。携帯電話でデータサービスを利用することが簡単になり、よい変化をもたらしました。それまでコンピュータでいうと初期のメインフレームのような状態でしたが、モバイルはオープンになりました。
AppleとGoogleは垂直統合することで携帯電話の使い方を変えましたが、今後の方向性としては水平にオープンになっていくと見ています。
―― 業界団体の場合、明確なリーダーシップがとれず、成功が難しいと見る向きもあります。WACが成功するために必要なことは何だと考えていますか?
クルーン氏 開発者からみてシンプルにすることです。Appleは同社がリリースする端末しかなく、シンプルですし、Androidも少し複雑ですが、Google1社が決めています。WACは端末もオペレータも異なり、複雑になる可能性があるため、気をつける必要があります。
各アプリストア側では、エンドユーザーに新しくて面白いものを提供することが必要です。エンドユーザーの多くはすでにAndroidやiPhoneを持っており、すでにアプリストアを利用しています。WACを利用する通信オペレーターやメーカーは、差別化したサービスや優れたユーザー体験を提供してユーザーをひきつける必要があります。たくさんのアプリが集まれば、ストア側も革新されていくのではと期待しています。
―― Android陣営がWeb版のAndroid Marketを発表しましたが、WACもWebベースのストアを提供できますか?
クルーン氏 Android MarketのWeb版はいいアプローチだと思います。WACでもツールを提供しており、Web版アプリストアの提供は可能です。
―― タブレットがブームですが、ターゲットをタブレットにも拡大する予定はありますか?
クルーン氏 すでにタブレットで動くバージョンを提供しており、技術的には可能です。ただ、現時点では携帯電話にフォーカスしているため、タブレットは将来、力を入れていくことになるでしょう。
―― 今年の最優先課題は?
クルーン氏 1つ目がコンテンツ流通の部分ですね。WACのアプリケーションを少しでも多くのストアに流通させることが重要です。8社のアプリストアが登場し、WACには70社弱が参加しています。他のメンバーにもWACアプリを提供してもらいたいと思っています。
2つ目が開発者に対する取り組みの強化です。われわれが利用するHTML技術はすでに開発者が慣れ親しんでいるものなので、開発者はWACに対して良い反応を示しています。開発者は、少しでも多くのストアで自分のアプリを提供し、収益を上げたいと考えており、WACとしてこれを支援していきたいと考えています。
関連キーワード
アプリケーションストア | HTML5 | Android Market | GSM Association | 業界団体 | プラットフォーム | App Store | Mobile World Congress | モバイルアプリケーション | 携帯電話向けプラットフォーム | 標準化 | ユーザーエクスペリエンス | Vodafone | Wholesale Applications Community
関連記事
- 特集:Mobile World Congress 2011
- デュアルディスプレイのAndroid端末 WACアプリのデモも披露――富士通ブース
MWCの富士通ブースでは、CEATECで公開した“2画面ケータイ”に続く“2画面Android端末”の試作機や、WAC対応アプリが動作する「REGZA Phone T-01C」ベースの試作機などが展示されている。 - GClue、モバイルアプリの標準化団体「WAC」に参画
GClueが携帯アプリ開発環境のオープン化を推進する業界団体の「WAC」に参画。同社のウィジェットプレイヤーについて、WAC規格に準拠した形での展開を目指す。 - 富士通が「WAC」に参画 国内携帯メーカーとして初
富士通は、携帯アプリ開発環境のオープン化を推進する業界団体「Wholesale Applications Community(WAC)」にスポンサーとして参画した。 - 大手キャリア主導のモバイルアプリ団体が統合
各国のキャリア24社がつくるWholesale Applications Community(WAC)と、ソフトバンクモバイルやChina Mobileの合弁Joint Innovation Lab(JIL)が統合する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.