第49鉄 マルーン色の電車旅――阪急電車と能勢電鉄で行く妙見山杉山淳一の+R Style(2/6 ページ)

» 2011年06月07日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

阪急京都線は京阪電鉄が作った!?

 阪急京都線は河原町から3つ目の西院までが地下区間。そこから地上に出て南西へ。嵐山線が分岐する桂駅から南下し、淀川の西側で東海道本線や東海道新幹線と並行する。淀川の向こうには京阪電鉄が走っており、阪急、JR西日本(在来線)、JR東海(新幹線)、京阪の4社が競いあう形となっている。

 関東は中央と衛星都市という構図だから、放射状に鉄道が発達して、領域を分けあっている。一方、関西は京都・大阪・神戸と大都市が直列している。だから官営鉄道と民間鉄道、そして民間鉄道同士が競争し、スピードとサービスを競ってきた。その歴史と背景は複雑だが、とくに阪急京都線の場合は、京阪電鉄が建設したところが興味深い。大阪-神戸間の阪神電鉄に対して、阪急が直線ルートの新線を作って競争を仕掛けた。

 これを見た京阪は、同じことが京都−大阪間で再現されてはたまらないと、自ら京阪本線に対する新線として新京阪電鉄を作った。ところがその後、戦時合併で阪急は京阪を統合する。そして戦後に京阪が分離独立したとき、新京阪線は阪急側に残された。これが現在の阪急京都本線だ。

 そんな経緯があるから、阪急の中でも京都線は神戸線や宝塚線と区別されている。例えば京都線は車両の規格がちょっと違って、同じ車両型式でも京都線用は300番代が付いている。神戸線や宝塚線系統が7000系で、京都線系統は7300系、9000系に対して9300系などだ。そして、梅田 - 十三間は神戸線、宝塚線、京都線の複線がズラリと並んで壮観だけど、京都線だけは中間駅の中津駅がない。

京都線の電車3300系。映画キャンペーンのヘッドマーク付き。
こちらは7300系。京都線用の電車は形式名の百の位に3がつく。

新幹線と併走、緩急接続……阪急京都線の面白さ

 京都線の歴史にはもう1つエピソードがある。東海道新幹線と阪急京都線は、大山崎 - 水無瀬 - 上牧間で並んでいる。実は、新幹線を作るとき、京都線も新幹線と並んで高架化した。当時、新幹線は開業前で京都線は営業中。高架化工事で京都線を停めるわけにはいかない。そこで、先にできた新幹線の線路で京都線を走らせた。つまり、東海道新幹線で最初にお客を乗せた電車は阪急京都線の電車だった。

 列車種別の多さも京都線の楽しいところ。京阪本線に対する直線新線という経緯があったからスピード重視。各駅停車の他に、準急・快速・快速急行・通勤特急・特急・快速特急と6種類も通過列車があって、さらに大阪市営地下鉄堺筋線へ直通する種別まである。ちなみに各駅停車しか停まらない駅から梅田へ行くなら、乗換案内サービスでは「そのまま各駅停車に乗ったほうが早い」と出ても、実際はいったん地下鉄直通準急に乗り換えて淡路まで行き、そこから特急や快速特急に乗り継いだほうが早い場合もある。時刻表や停車駅案内図を眺めて、こんな乗り継ぎを考えるだけでワクワクする。

阪急京都線の名所!? 新幹線と並走する区間
こちらも阪急の名所、梅田−十三の3複線を行く

梅田大ターミナルから宝塚線へ

 阪急の中で京都線は異端児。これに対して元から阪急線だった神戸線と宝塚線をまとめて神宝線というそうだ。でも、十三 - 梅田間を見ると、そんな区別なんかどうでもよくて、3複線の壮大な場面に感動する。毛利元就の「3本の矢の教え」のごとく、この区間こそが阪急の礎。けっして崩れない阪急王国の証だ。梅田駅では各路線が3つの線路を割り当てられる。ヨーロッパ風の行き止まり式ホームに、最大で9本の電車が並ぶ。ここに立つだけでうっとりしちゃう。この風景をじっくり眺めたい人のために、梅田駅には建物の両端の2階に喫茶店を作ってくれている。しかし残念ながら、今回は時間がなくて寄り道できなかった。もっとも今日の私は、阪急電車の旅そのものが寄り道だったっけ。

梅田駅大ターミナル。広い。大きい(クリックすると拡大します)

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